内容説明
私の名はアイリーンといった。あるクリスマスイブの夜まで……。少年用の矯正施設の事務員として単調な日々を過ごす私。だが、魅惑的な女性レベッカに出会い、私の人生は劇的に変わる。鋭い観察眼と容赦ない筆致で黒い感情を掻き立てる、ブッカー賞最終候補作
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
82
心が騒めく物語。アル中で姉ばかりを愛し、元警官という恩情で生き長らえるだけの父を憎悪し、女らしさを拒絶しつつも性や暴力に惹かれている。上っ面で人と接し、自分が空っぽだと自覚している。人への憧れは一方的で熱しやすい分、冷めやすい。「いつか、ここから抜け出したい」と思っていても怠惰や不安を言い訳にグズグズしている。アイリーンの姿は私とも重なる部分があり、心がささくれる。現在と50年前のアイリーンが錯綜する様は『エル』のようだ。相変わらず、整合性のないアイリーンの姿はまるで「人間として生きてきた」というかのよう2018/02/27
Willie the Wildcat
65
主観性vs.客観性。後者の軸を育む術を、あらゆる形で阻まれた中での心情。徹頭徹尾「悪」で貫いた1964年の一週間、そして迎えた転機。その表層の根底に微かに残されていた「善」、それが鹿との別れに見せた涙。過去を捨てる「悲喜」の交錯。50年後の語り、故のバランス。これが本著の礎。人が本能で保とうとする、物心両面での±の揺れ。象徴が”ツララ”。遺された傷は、表層的には代償だが、深層的には歯止め。過去があるからこその今、その意味と価値。原文だと、より圧倒感があるのだろうと推察。2024/05/04
ヘラジカ
34
アイリーンの人生を変えることになるイベント(事件)自体が物語のミステリーであるという構造と、その出来事の中身には特段印象的なものは見られない。ただしそこに辿り着くまでの赤裸々で不気味な独白によって、この作品は「記憶に残る」小説へと変貌している。ストーリーは地味でなんていうことはないのに、この前半(というか大半)部分の生活・性格説明が実に強烈なのだ。グロテスクで不愉快だけれど決して非現実的ではないような、自分にもどこか共通するものがあると錯覚してしまうような、そんな生々しい心理描写がこの小説の醍醐味だろう。2018/01/12
くさてる
24
孤独な若い女性であるアイリーンは誰にも顧みられることなく平凡な毎日を苛々と過ごしていた。ここではないどこかへ行くことを夢見ていた彼女の前に、一人の女性が現れて……という話。正直言って、アイリーンの暗く荒廃した日常生活の描写が延々と続くのがかなりしんどかったのだけど、途中に挟み込まれるここから何十年後のアイリーンの視点から、これで終わる話でないと読み続けた。そしたらレベッカのあれで悲鳴を上げましたね。すごいけど、納得できる流れとはちょっといえない……奇妙なエネルギーに満ちた物語でした。2018/10/13
marumo
23
アル中の父と二人暮らし、勤め先の少年監獄と自宅の往復の毎日。目立たず、とるに足らない娘として注目もされず。そんなアイリーンの頭の中は、周囲&自分への呪詛と性的妄想でパンパンに。共感が全てではないが、アイリーンの回想する日々が平板かつ暗澹とし過ぎで、行動を起こさず、気持ち悪い行為に執着する彼女に嫌悪感が募る。美女レベッカが登場してからは急転直下、まさかの展開。最後に一人で全てやってのけたアイリーン。それまでの嫌悪感が一気に同量の称賛に変わった。若い娘の承認欲求とそこからの脱皮の物語ともいえる。真っ黒だけど。2018/04/20
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