内容説明
都市空間に住む家族の物語を描き続けた漱石。明治民法によって家の中にも権利の意識が持ち込まれ、近代的「個」の自覚、生活に浸透する資本主義、家族を離れた愛など、新たなテーマが見出されていった。中でも漱石にとって最も謎に満ち、惹かれた対象は「女の心」だった……。後期六作品を中心に時代と格闘した文豪像を発見する試み。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
抹茶モナカ
19
漱石の後期3部作を軸にした評論集。漱石作品で、この分冊で論じられたうちでは、『こころ』しか読んでいなかったので、未読の本の評論は読むのがキツかった。この分冊でも石原さんは、他の評論家の言葉を多数引用していて、研究家というのは凄いな、と感じつつ、でも、この評論集を読んでも「漱石読みたい。」とは、何故か、思えなかった。2017/08/08
かんがく
15
いわゆる文芸批評を読むのはほぼ初めてであったが、とても面白かった。漱石文学を相続、家庭、女性を扱う明治民法小説としてとらえ、一章一作品で解析を行う。様々な哲学や思想が引用されて難解な部分も多いが、作品解釈についてなどタメになった。まだ『こころ』と『三四郎』しか読んだことがないので、他にも漱石を読んでみたくなった。2020/02/19
勝浩1958
9
漱石が生きた時代の精神を踏まえたこのような深みのあるテキスト論に出逢えたことで、漱石の作品に一層魅力が増して、何度も作品を読み返したくなりました。物語的主人公と漱石的主人公がいるという指摘に興味が魅かれました。2017/07/29
朝乃湿原
3
『彼岸過迄』の須永が、時間軸で表されると全く救われていなかった等、原作を読んで思ったこととは異なる印象を与えてくれる書籍だった。時間があれば原作を何度か読み直したい。そしてまだ読んでいない『門』と『虞美人草』がとても気になった。2017/11/26
yagian
2
漱石の小説でいちばん好きなのは「門」、いちばんよくできていると思うのは「それから」、いちばん気になるのは「明暗」である。石原千秋が指摘するように、「明暗」の津田とお延は、現代のそこらへんにいくらでもいそうなカップルのようで、100年前の小説とは思えないからだ。特にお延の空回り感が痛々しく、突飛な対比だけれども、「アメリカンビューティ」のアネット・ベニングが演じていたアメリカ郊外の家庭の対面を守ろうとして空回りする主婦の痛々しさを連想する。2017/09/18