内容説明
つばきは、深川に移り住み、浅草で繁盛していた一膳飯屋「だいこん」を開業した。評判は上々だが、「出る杭は打たれる」とばかりに、商売繁盛を快く思わない者もいた。廻漕問屋「木島屋」から、弁当を百個こしらえてほしいという大口の注文を受けたのだが……。浅草とは仕来りの違う深川に馴染もうと、つばきは奮闘する。祭の興奮と職人たちの気概あふれる深川繁盛記。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
97
私が浅草を舞台にした前作『だいこん』を読んだのは2009年の9月のこと。もう九年近く前のことだ。気丈で凜とした生き方をするつばきは健在です。そしてそうしたつばきを周りから応援する人情も深川においてなお深まったように思える。こうした人情噺が描く価値観は多くの日本人が心の奥底に持つ原点であろう。フィクションでありながらつばきの幸せを願わずにいられない。惜しむらくは深川で店を始めた頃、大店の木島屋を騙って大口の注文をしたいきさつが拡がりを持って描かれなかったこと。意外な真実が隠されていたらさらに楽しめたのだが。2018/05/06
タイ子
37
前作の「だいこん」から数年経っての続編だったので読み進むうちに思い出してきた感じ。 でも、一力さんの文章には生きていく上での覚悟が優しく、厳しく書かれていて清々しいから好き。 この作品の主人公一膳飯屋「だいこん」のつばきも飯屋としては繁盛しているも、「出る杭は打たれる、出ない杭は踏んづけられる」と聞かされ商売の厳しさを知っていく。 人は誰でも一人では生きていけない、そのためには何をすべきか…。そんなことを改めて感じさせてくれた作品です。2017/10/07
jima
27
深川編。「出る杭は打たれる。出ない杭は踏んづけられる。」か。日常を忘れて、江戸の世界に入り込める作品。続編があるそうだ。2017/12/08
蒼
23
浅草から深川に移り新たに「だいこん」を開業したつばき。廻漕問屋からの弁当百個の大口注文の詐欺にあったり、札差への幕府の棄捐令にまつわる貴重な情報を、つばきの人柄と気風に惚れ込んだ番頭に伝えられたり、何より長い付き合いの弐蔵が影に日向につばきのための影働をしてくれる。江戸っ子の張りと粋と見栄を存分に発揮するつばきを、たくさんの人が支えてくれる。「慌てずうろたえず、時期の到来を待てばいい」木島屋頭取番頭の言葉を実践した後に、つばきはどんな生き方を選ぶのだろうか。次巻が楽しみだ。2020/05/14
Kei.ma
22
作者の仕掛けなんぞ御構い無しに、読者は無頓着に楽しく活字を追う。そうさせるのが、山本一力さんの長編時代小説「つばき」である。問答無用の楽しさであったが、商道が顔を覗かすと物語は締まる。幕府の棄捐令が発布されると、札差の損害を、それ見たことかとはしゃぐ町人で、江戸の町は二分されてしまう。ところで、主人公のつばきは江戸深川で一膳飯屋だいこんを営む女主人である。妙齢26才、商人としての才覚も芽生えている。陰に日向に支える焔魔堂の弐蔵親分の想いは叶うのか。山本一力さんが伝える江戸町風情を堪能した。2018/09/27