内容説明
1925年、中国・上海で起きた反日民族運動を背景に、そこに住み、浮遊し彷徨する1人の日本人の苦悩を描く。死を想う日々、ダンスホールの踊子や湯女との接触。中国共産党の女性闘士芳秋蘭との劇的な邂逅と別れ。視覚・心理両面から作中人物を追う斬新な文体により不穏な戦争前夜の国際都市上海の深い息づかいを伝える。昭和初期新感覚派文学を代表する、先駆的都会小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
y_u
3
戦前書かれた本としては、非常に読みやすい。内容も1925年の5.30事件が起こる前後の国際都市の上海を描き、その当時の民族のダイナミズムを感じる。銀行員として働いている参木を中心として、紡績会社で働く甲谷、遊女であるお柳やお杉、ダンサーの宮子など日本人の登場人物ももちろんのこと、宮子の恋人たちであるアメリカ人やドイツ人、国民会議派のインド人、元貴族の春婦のロシア人、共産党の女スパイである中国人がそれぞれの立場で、上海という特異な空間を欲望や感情をむき出しにしながら生きていく様をまざまざと書き切っている。2014/10/13
らおがんま
2
魔都と言われる由縁が垣間見えるような一冊。1920年代の上海はどんなものかと思い読み始めたが、当時の在上海日本人のやり取りや関係性を通じて、闇鍋のような上海が描かれている。解説も非常に興味深かった。2022/05/21
格
2
横光利一は『機械』、『寝園』に続いて三作目。この二作は非常に面白かったのだけれども、恐らくそれはプレート工場だとか狭い交友関係だとか、つまりは狭い舞台においてこそ、新感覚派と称される横光の技法が最も活きていたからなのではないかと思う。本作は1925年の上海を舞台としている。歴史には明るくないが、当時の上海はまさしく混沌というか、多種多様な人種の思惑が入り交じった地であったようだ。その多様性を全て描ききるという点にまでは及ばず、結局「上海内の日本人」に焦点を当てているので、肩透かしを食ったような気にもなる。2020/09/18
Gakio
2
アジアとヨーロッパ。「モダニズム」手法を形而上学的から自然科学的へ。 再読することで読みを深めていけるタイプの作品だと思う。横光利一は他も読もう。2020/01/30
おサゲっち
2
大学時代に読んだときにはただの小説として読んでいたが、今読むと横光の知性と先見性に舌を巻く。また同時に大戦前夜が各陣営の立場から詳細に描かれ大変参考になった。2019/08/12