内容説明
グリム童話が不思議に交叉する丘の上の家。“姉がひとり、弟が二人とその両親”――嫁ぐ日間近な長女を囲み、毎夜、絵合せに興じる5人――日常の一齣一齣を、限りなく深い愛しみの心でつづる、野間文芸賞受賞の名作「絵合せ」。「丘の明り」「尺取虫」「小えびの群れ」など全10篇収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちゃちゃ
117
やわらかな秋の陽射しがさし込む食卓。ついこのあいだまで聞こえていたはずの子どもたちの声はなく、独り本を読む静かな午後のひととき。顧みればそれはずいぶん昔のことだ。鞄を放り出しお菓子を頬張ったまま“お母さん、あのな…”と矢継ぎ早に一日の出来事を話す娘たち。夕食の準備をしながら話半分に相づちを打っていたあの頃の幸せ。本作は、過ぎ去った掛け替えのない日々への愛おしさを、ふと想起させる作品だ。山の上の家で、家族5人で過ごす何気ない日常の尊さ。追憶の切なさは、それらの日々がもはや取り戻せないが故の輝きを放つからだ。2021/11/08
こうすけ
20
庄野潤三、短編集。作者本人が「家族日誌」と呼ぶ、家族五人の日常を淡々と描いた内容。特に『絵合せ』が素晴らしい。娘の結婚までの日々を描きつつ、そこにはほとんど触れない。ただ、朝の台所で妻が漏らす、「可哀そうに」というたった一言が効く。あとがきの、「雑多で取りとめのない事柄は、或いは結婚よりももっと大切であるかもしれない。それは、いま、あったかと思うと、もう見えなくなるものであり、いくらでも取り替えがきくようで、決して取り替えはきかないのだから」という言葉に、庄野文学のすべてが詰まっている。2023/04/19
ぱせり
8
家族の変容を前にして、穏やかな「清め」の儀式でもあるかのような絵合せ。家族それぞれの日々が丁寧につづられる。緩い歩調の足元を見つめながら、一歩一歩着実に歩いていく。その足取りのゆとりは、きっと現在・過去・未来を俯瞰する広く深いまなざしの末ではないだろうか。さややかな日常を味わいつつ、大きな懐に触っているような気がする。 2013/11/07
味読太郎
7
殊、『絵合せ』について。目が向いたのは「彼」と語りとの距離感。私小説でありながらその経験のぬしであるところの彼は語りよりも僅か後ろに隠れるようだ。子供達が持寄る動物や友人についての、さして重みのないお話が彼の家族に集まり、断片的に並べられる。和子の結婚やセキセイインコの死のような人生の転機契機らしい出来事を持つも、集まるのは生活の細部的なもの。忘れ得る断片に自然と普遍的に真実は在り、捕まえるようでちょうど良く聞き逃す。「テーマが無い」、と感じられたのもこの距離感のせいだろう。何か癖になりそうな読後感。2016/05/06
mawaji
6
何か特別な出来事が起こるわけでもない昭和の家族の断片が綴られていて、私も実家に帰れば子どもの頃に過ごした母家や裏庭で昭和のノスタルジーに浸ることもできるけれど、その実家も永遠に存在するわけではないし、まして第7波が訪れそうなコロナ禍で帰省もためらわれる今となっては実家で過ごした日々は幻だったのかもしれないな、とフト思ったりしながら読みました。子どもたちが小さかった頃の暮らしも「いまあったかと思うと、もう見えなくなるもの」で今の暮らしも「いくらでも取りかえがきくようで、決して取りかえのきかないもの」なのだ。2022/07/07
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