内容説明
隕石と衝突し、突如操舵不能になった宇宙船。しかも悪いことは重なるもので、なんと船はピンケンバヒヤ重力渦に突入、時間の流れがめちゃくちゃになった結果、月曜日の私からはじまって火曜、水曜、木曜…と無数の私が出現!てんやわんやの大騒動に…広大無辺の大宇宙を旅する泰平ヨンが出会うさまざまな奇想天外・珍無類のできごとを、東欧SF界の巨星レムが奔放な筆致で描きあげた連作短篇集、待望の改訳決定版。
著者等紹介
レム,スタニスワフ[レム,スタニスワフ][Lem,Stanislaw]
1921年、ポーランド領(現ウクライナ領)リボフに生まれる。46年にクラクフに移り、大学で医学や哲学、理論生物学などを学ぶかたわら執筆活動をはじめる。51年の『金星応答なし』で一躍人気を博する。以来、宇宙版ほら男爵冒険譚ともいえる「泰平ヨン」シリーズや、『ソラリスの陽のもとに』『砂漠の惑星』など、独自の批判的視点と想像力に満ちた話題作を次々に発表しつづけ、SF界で不動の地位を築いた。2006年死去、84歳(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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三柴ゆよし
35
『ソラリス』より『完全な真空』が好きな人にオススメしたい。個人的にはこれまで読んだレム作品でベストかもしれない。要は宇宙時代の伝説的人物・泰平ヨンの手記という形式で語られる珍無類の冒険譚なのだが、まあこれだけ有名でしかも謎めいた人物なんだから当然偽書もあるよね、という旨の序文(泰平学の権威・タラントガ教授による)が付されることによって、物語は新たな枠を獲得、メタにメタを滅多撃ちした、こんがらがり系ハードSFとしての様相を呈してくる。レムくらい頭のいい人が本気でふざけると、まるで太刀打ちできないから困る。 2012/10/06
かとめくん
32
冒険家泰平ヨンが宇宙を駆け巡る奇想天外な冒険譚の体裁を取っていて、ユーモアのカバーをかぶせているものの、中身は難解かつ容赦ない文明批評だったり、哲学SFだったり。人間も宗教も徹底したシミュレートで分解する。キリスト教をおちょくる。人類も個人もその存在意義を問われ、価値観はひっくり返される。ぼけっとしていると円盤に加工されて飾り付けられてしまうかもしれないので気をつけましょう。2015/09/18
miroku
20
一見単なるコメディだが、テーマを理詰めで追い詰めたハードSFでもある。考えさせられる小説だし、希有な作品だと思う。2013/10/07
のがわ
16
奇妙な名前の宇宙旅行家を主人公とする短編集。意思をもったコンピュータが支配する珍妙なロボット社会で最後に明らかになる正体に驚嘆する「第11回の旅」、天災の備えとして人体複写が普通になった社会でのアイデンティティの揺らぎに空恐ろしさを感じる「第14回の旅」、時間移動による人類の改良計画が官僚主義の無責任と怠惰により滅茶苦茶になる「第20回の旅」は他に類の無い傑作。『短篇ベスト10』にも収録され評価の高い「第21回の旅」は今風に言えばポスト・ヒューマンものだろうか着眼点は良いものの長過ぎて読むのに難儀した。2015/05/26
亮人
13
SFの様々な要素が大量に盛り込まれていて楽しかった。時間SF好きとしては「20回」が特に面白かった。ドタバタ続きかと思ったら「21回」の宗教の話はへビィで難解だった。あと表紙が格好良いんだけど、文中からしてヨンの宇宙船はもっとこじんまりとしてるようなイメージなんだけど。。。2009/09/24