ハヤカワ・ミステリ文庫<br> 死者との結婚

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ハヤカワ・ミステリ文庫
死者との結婚

  • ISBN:9784150705534

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内容説明

一枚の切符、五ドル紙幣、そしてお腹の中にいる赤ん坊――それがヘレンのすべてだった。男に捨てられた傷心を抱き列車に乗った彼女にとって、前の席で楽しそうに語らう若夫婦と寄るべもない現在の自分との落差はあまりにも大きかった……彼らは親切にしてくれ、ヘレンの心も次第になごんでいった。だが、列車転覆という思わぬ事故でヘレンの運命は一変した。不思議な運命の糸に操られた女の辿る物語を流麗な筆致でつづる!

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

Kircheis

274
★★★★★ 個人的にはアイリッシュのベスト作。 アイリッシュならではのサスペンス的要素も備えているが、儚い純文学作品のような香りが漂う傑作だ。 もちろんビルがパトリスに車の中で想いを打ち明けるシーンがハイライトだが、それとは別に母親のグレースに助演女優賞を捧げたい。 ハッピーなエンディングとは言えないが、いつか真犯人が見つかり本当の幸せが訪れることを祈るのみ。2022/07/03

セウテス

65
〔再読〕病院のベッドでヘレンが目を覚ますと、自分はパトリスと思われていた。ヘレンは男に捨てられ、身重の体で列車に乗った。車内で同じく妊娠しているパトリスと知り合うが、その後列車は事故に遭っていたのだ。ヘレンは人生をやり直すべく、パトリスとして生きる決心をする。何の悪意も野望も持たない、普通の女性が主人公なのは珍しい。幸せな毎日から、いつ入れ替りがバレてしまうのかというサスペンスを堪能していたら、さすがにアイリッシュ作品、それでは終わらない。心からの思いや叫びが、音楽の様に響いてきて、物悲しさに包まれる。2018/03/13

Ryuko

26
お金もなく、頼る人もなく、おなかに赤ちゃんを宿すヘレンが列車で若い夫婦と出合う。不幸な列車事故により亡くなった若夫婦の妻と間違えられ、入れ替わる。いつばれるのか?というサスペンス。なんとなく既視感のあるストーリー。映画化、ドラマ化されているようなのでそれを見たのだろう。冒頭のモノローグが悲しい結末を暗示する。不幸で愚かな女性が入れ替わった家族の善意にがんじがらめになっていくのが哀れ。。2018/10/12

Tetchy

10
1人の女性の運命が翻弄されるプロットが実に心憎い。やはりアイリッシュは、こうでなくてはならないという期待に必ず応えてくれる信頼できる作家だ。本書の主人公ヘレン・ジョーゼッソンは通常のアイリッシュ作品と違い、決して悪女ではないのが特徴的だ。プロットはよくよく考えると非現実的だけれど、詩的な文体が織成す前時代性的雰囲気、そして行間に流れる登場人物の哀切な心情が読者の共感を誘い、一種の酩酊感すら覚え、これが一種荒唐無稽な設定に疑問を抱かせず、流麗な筆致で語られる物語へ没入させられる。2010/05/19

elf51@禅-NEKOMETAL

6
男に捨てられた女性,お腹には子供が。乗り合わせた若夫婦との落差。列車転覆事故で死んだ富豪の妻と間違われ,思わぬ方向へ。そのまま誤解は続き,告白できぬままためらいと恐れの葛藤をアイリッシュならではの文体で書ききっている。最後はただでは終わらず,作者ならではの皮肉に捻った結末。ハッピーエンドかと思わせながら妙な余韻を残す。美味いところだろう。2021/03/03

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