内容説明
1922年、ロンドン近郊。戦争で男手を喪い、母とふたりで暮らすフランシスは、生計のため広すぎる屋敷に下宿人を置くことにする。広告に応じたのは若い夫婦、レナードとリリアンのバーバー夫妻だった。家の中に他人がいる生活に慣れないフランシスだが、ふとしたきっかけからリリアンと交流を深めていく。公園でのピクニック、『アンナ・カレーニナ』の読書、そして互いの過去を知りあうことで……。いつしかふたりの女性に芽生えた感情は、この物語をどこへ運んでいくのか? 心理の綾を丹念に描いて読む者を陶酔させる、〈このミス〉〈週刊文春〉第1位作家・ウォーターズの傑作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
219
ミステリーと言うよりも 「女の花園」的な シーンが延々と続く上巻だった。 フランシスとリリアンの 心の通いあいは ひどく静かで 女性二人の 愛の語らいの世界が続く。二人の各々の過去に 何があったのか..ひどく危うげな今と これから何が起こるのかだけが 気になる 上巻だった。2017/02/07
KAZOO
137
上巻はミステリーというよりもラブロマンス的な色彩が非常に濃い内容となっています。ただこの物語を読んでいく上で注意していきたいことはこの時代背景というものを理解しないとなぜこんなに主人公たちがうじうじと悩まなければならないのかということが理解できないと思います。私は我慢して読みとおしました。2016/07/20
のぶ
52
まだ前編を読む限りだが、とても繊細な心理で、人間関係を描いた小説のような気がする。一次大戦後母と暮らす主人公フランシスが、下宿人を家に置くことにする。やってきた夫婦の妻リリアンに魅かれ愛に変わっていく。同性間のラブロマンスがこのまま続くのか?新たな事件のミステリーに進んで行くのか?何となくそんな気配を感じさせたところで上巻は終わり。感想は下巻で。2016/04/17
yumiha
48
『殺しへのライン』(ホロヴィッツ)のホーソーンが読んでいた『エアーズ家の没落』を置いていない地元図書館だったので、同じ作家の本書をチョイス。そして驚いた、レスビアン小説だったので。しかもそこへ至るまでの心理状態やら性行為やらの描写がとても詳細だった。これまで女性との恋愛経験のなかった私、かなりドギマギ赤面しましたぜ。でも主人公のフランシスの気丈さは、好みだ。また、英国なのに古めかしい道具類や思考が出てくるしので、あれっ⁉と思ったら、時代背景は1920年代だったのねん。2023/04/25
星落秋風五丈原
31
上巻と下巻の表紙は対になっている。上巻の普段着の女性は外を向き、下巻の女性はハイヒールを履いて、今にもどこかに出かけそうだ。一見、普段着の女性が労働者階級の女性、華やかな服装の女性が上流階級の女性のように見えるが、実は逆である。物語は第一次大戦と第二次大戦の間に挟まれた時代のことであり、ウォーターズ作品『エアーズ家の没落』でも描かれていたような、上流階級の没落が始まっていた。本作に特定の悪役はいない。必要ないのだ。なぜならば、同性同士の恋愛を忌避する世間の常識が彼女らの敵であるからだ。2016/03/10