内容説明
『源氏物語』にも比せられ、『ユリシーズ』と並ぶ二十世紀最大・最強の長篇小説。しかし一万枚を超す長さと、文章の複雑さゆえに読み通すのが容易でない本。その真の魅力と、作家が隠蔽しつつも書き残した謎を、ヌーヴェル・クリティックの第一人者が初めて説き明かす。プルーストの姿を追って旅したヴェネツィアで見たものとは?
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
榊原 香織
77
フランス語文法の初級知識がいります。 ”失われた時を求めて”の凄さは複合過去形を用いたこと。 話ことばだから。 プルースト自体も難しいのに、ベルクソン出すとますます難しい。 謎が謎を呼んでしまった2022/07/11
SOHSA
38
《図書館本》本来、この種著作は読まない主義だった。小説はやはり解析精査すべきものではなく、読み手が個々の視座で味わうべきと考えていたからだ。加えてこうした著作を読むと著者の言説にひきずられてしまう自分の弱さもあった。しかし、うしプルを誰かと共有したい誘惑に駆られついふらふらと手にとってしまった。結論として著者の言説は明解でわかりやすく面白かった。研究書というよりむしろ柔らかな読み物として。しかし、やはりうしプルを読了する前にはお勧めしない。まずは自らの力のみで全巻読了した後の1冊とするのがよいかと。2018/04/05
踊る猫
22
このテのタイトルの本にありがちな、テクストや構造の矛盾を隅々までつついて回るしつこさはない。教科書通りに『失われた時を求めて』を読み、そしてそこから平易に記憶や世界観を炙り出してみました、という感じ。悪く言えばぶっ飛んだところはないので退屈。この著者ならではの力技をもっと読ませて貰いたかった気がするが、ただそこは後半部のルポルタージュ仕立ての部分が読ませる作りとなっており、この旅行記だけで一冊書けるんじゃないかという気もする。この部分をキモに持って来て構造を練り直した方が面白くなったのではないか、というか2018/04/10
きゃれら
15
語り手が母とヴェネツイアを訪れた際の「その女こそ私の母なのだ」という謎の文。僕は「失われた時…」が書かれているその時には死んでいる(らしい)母の姿を語り手がいつでもそこに見い出せるくらいの意味と思った。その文から小説のテーマと作家の思いを引き出すのが筆者の謎解き。原文が引用されるので初級フランス語の知識があると尚楽しめる。ベルクソンと並置する第12章はわかりにくいが、主体と客体の二元論の克服がそんなに重大なことと自分には思われないから?作品通読後に手に取ったが、読む前だったら更にわかんなかったかもなあ。2022/08/08
またの名
14
長大な小説が冒頭に10行でさらっと要約されてしまい困惑。ストーリーを追う楽しみはお預けにして、異なる二つの現象を隠喩という形で結びつけるプルーストの方法が、あの特徴的な長々とした文体にも作品全体の構成にも、さらには遠く離れていたものの記憶を引き寄せる無意志的想起にも働いているとする重ね合わせのテーマが本書を貫く。小説としてなら倒錯者シャルリュス男爵以外にも魅力的な人物が多く登場する面は取り上げてほしかったけど、テクスト論者があえてその枠を超えてヴェネツィアへ赴く趣きは、あたかも推理探偵もの。まさに謎解き。2017/08/17