内容説明
戦争末期の東京――空襲に怯え、明日をもしれぬ不安な日々を過ごす十九歳の里子。母と伯母と杉並の家に暮らす彼女の前に、妻子を疎開させた隣人・市毛が現れる。切迫する時代の空の下、身の回りの世話をするうち、里子と市毛はやがて密やかに結ばれるが……。戦時を生きる市井の人々の日常と一人の女性の成長を、端正な筆致で描き上げた長編文学作品。谷崎潤一郎賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
106
大東亜戦争末期の東京杉並。19歳の里子は母と伯母の3人で戦時下を生きる。隣家の市毛は妻子を疎開させて1人で暮らしている。男手の無い里子の家は市毛を頼る。リアルな戦時下の状況下の描写に唸らせられる。家と夫と子供を空襲で喪った伯母瑞枝の、空襲時の悲鳴のような笑い。やはり、戦時下を体験した人間でないと表現できず、また、真の意味で理解も出来ないであろう。里子は戦時下のもと、成長し市毛と密やかに結ばれる。しかし、敗戦がその関係の終わりをもたらす。70年前の事であるが人間関係の悩み等は現代と変わらず興味深く読めた。2015/05/25
いたろう
71
終戦の日を前に。数年前に映画が公開された時、予告やちらしを見て、戦争を背景に許されない恋を官能的に描くというのはいかがなものか、戦争を軽視しているのでは?と思い、結局、映画は観ず仕舞いだったが、今回、原作小説を読み、印象が変わった。戦争の中を育ってきた里子は、逆に戦時中でない世界が想像できない。唯一想像できるのは、戦争が終わると市毛の妻と子が疎開先から帰ってくるということ。そんな里子は、戦争が終わると言われて喜べるのか。作者の高井氏は戦争を経験した世代であり、戦時中の描写もリアル。改めて映画も観てみたい。2019/08/14
馨
48
恋愛の部分は自分的にあまり響くものはなかったし、里子にも全く共感出来なかったが戦時中の国民の心境(本土決戦が間もなくあるのではないか、新型爆弾がまた落とされるのではないか?)や逼迫した生活の中でも親族同士であっても助けてあげるのが困難な状況、自分が生きるだけで精一杯な生活等戦時下の暮らしはよく描かれていたと、思います。映像化決まってるみたいですがどんだけ響くものがある作品になるかなぁ?2015/05/31
かおりんご
46
小説。戦争末期の東京都杉並区が舞台。身近な場所が出てきそうで、わくわくしながら手にしたが、正直合わなかった・・・里子に気持ちを投影しながら読んだせいか、市毛のズルい大人の男っぷりに閉口した。逼迫した戦時下の生活や人々の厭世観などは、とてもリアルに伝わってきたのだが、里子と市毛が惹かれ合う様子は受け付けなかった。なんだろう、市毛に太宰治を重ねてしまったせいか?2015/11/08
橘
40
終戦記念日までに読み終わろうと勝手に決めていました。終戦間際の、東京に住む人々の日常が、生き生きとリアルに感じられました。主人公の里子が、何をやっても美しく見える時期、と市毛に言われるところが、なんだか悲しくなりました。戦時中じゃなかったら、里子にはどんな幸せが、と思って。戦時下でも、人々は暮らしていかなくてはならないわけで、人々の生活の隅々まで戦争の影が満ち満ちている、それが読みやすい文章からひしひしと伝わってきました。戦争をする国に再びなってはいけない、と思いました。映画も見たいです。2016/08/11
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