内容説明
血に濡れたネグリジェ姿で売春宿から逃げてきた少女、バード。黒頭巾の男が子どもの遺体を街外れに埋めたらしいという彼女の証言によって、ティムは19人もの子どもの遺体を発見してしまう。彼らのほとんどが胴体を十字に切り裂かれていた。あまりの出来事におののくティムだったが、さらにカトリックの聖堂の扉に少年がはりつけになっているのが発見される。19世紀半ばのニューヨークにおけるプロテスタントとカトリックの対立、アイルランド系移民の排斥、政治闘争などを背景に、苦難に負けず「前に進みつづける」人間たちの勇姿を描いた雄篇!/解説=日暮雅通
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
61
この作品では、実在した人物市警察本部長ジョージ・ワシントン・マッセルを登場させて、ニューヨークの市警ができた当時の社会情勢をリアルに描いている。アイルランド移民の増加による治安の悪化と、最初に来たピューリタンたちとカトリック教徒との宗教的確執。描くのは、そういったニューヨークの影の部分と、身勝手な大人たちの醜さだ。子どもの自我を押し潰しかねないほどに厳格すぎる大人。研究熱心すぎる者。子どもの命より自分の利益の方が大事な大人。さまざまな身勝手な大人たちに翻弄されるのは、いつでも子どもたちだ。2023/02/01
星落秋風五丈原
55
ティムの一人称語りになる本書は、上巻でティムが警察官という職業を受け入れるまでの葛藤に多く頁が割かれ、下巻で事件が動き出す構成になっている。心理描写が多く冗長という意見もあるが、一人称語りを選んだのはむしろ彼の葛藤を描くためだろう。消防士で警察の分署長で党の運営にも積極的な兄ヴァルは、一見できた大人に見えるが、薬に溺れて性別構わず関係を持つような破滅的な人生を送っている。著者はシャーロッキアンらしいが、ホームズとマイクロフトとは一味違う、緊張を孕んだ兄弟関係は、三部作の間でもう少し進展を見るのだろう。 2017/09/01
本木英朗
24
血に濡れたネグリジェ姿で売春宿から逃げてきた10歳の少女、バード。馬車に乗った黒頭巾の男が子どもの遺体を街外れに埋めたらしいという彼女の証言によって、ティムは19もの子供の遺体を発見してしまう。彼らの多くは、胴体を十字に切り裂かれていた……という下巻である。とにかく読もう、それしかないってば! 流石は作者である。ぜんぜん分からなかったけども、それでもいいさ!! 満足でした。2024/08/21
はんみみ
20
中盤、ティムの人生を支える足元二つが同時に崩れたときはどうなることかとドキドキした。それでも人生は続いていくし、街も続くんだなと、ラストでしみじみしてしまった。革新を目指す人間は得てして過剰になりすぎるし、それに強固に反対する側も過剰になりすぎる。*直前に読んだ本とかなり被る部分があり、多様性の認められる世界で生きていることに感謝したくなった。2014/02/28
Hugo Grove
20
これでデビュー作。すごいです。面白かった。犬猿の仲の兄との関係。子供達との交流。そして事件の真相。とてもよく練られていて全く飽きさせることなく最後まで一気読みでした。この作家の次の作品もぜひよみたいです。2013/11/05