内容説明
古代ギリシア都市に見られる領域「ノー・マンズ・ランド」とは何か? ハンナ・アレントが重視したこの領域は、現代の都市から完全に失われた。世界的建築家がアレントの主著を読み解きながら、われわれが暮らす住居と都市が抱える問題を浮かび上がらせ、未来を生き抜くための都市計画を展望する。人が幸せに生きるためには、来たるべき建築家が、公的なものと私的なものの〈あいだ〉を設計しなければならない。(講談社選書メチエ)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かんがく
14
タイトルが魅力的過ぎて手に取ったが、内容も負けず劣らず魅力的であった。建築と都市というテーマに対して、アレント、マルクス、フーコーなどの思想を用いてアプローチしていくという、今私が一番関心を持っている内容かもしれない。公的領域と私的領域の間にある閾、居住空間であり商業空間である見世など、近代社会=市場経済とともに失われていった存在に再注目し、官僚的・一元的な労働者管理のための住宅からの脱却が提言されている。まちづくりについて考える際の視野が広がった。2022/07/11
koji
9
建築とは何か。著者は、Hアーレントの言葉を引用し、ギリシャにおけるポリス(公)と家(私)の関係に求めました。所謂「外面の現われ」です。そこでは建築は物化の中心にいました。しかし資本主義が進み労働者が現われ、労働者住宅という「社会」が現出すると、「ギリシャの世界」が解体されます。権力が入り込んできたのです。それ以後、建築は権力の従属物になりました。邑楽町の町庁舎コンペから理不尽に締め出された怒りが本書の契機ですが、昨今の新国立競技場建設を巡る動きの根本(著者の意見はネットで読めます)も分かる問題提起の書です2015/09/05
shk
8
建築家の著書は初めて読んだ。この方だけかもしれないが、建築という営みにここまでの理念と広がりを込めていることに驚いた。産業革命で「労働者」が出現。無秩序な労働者を管理するため現代のような内と外が隔絶された住宅が作られた。労働者を家に押し込め、政治空間から隔離する。建物により官僚制支配が空間化された。産業革命以前にはあった、人々が公的権力に参加する空間(コミュニティ)を建築により再興しようとする。著者の話を聞く機会もあったが、建築家としてあくまで住民の権力を念頭に置いた取組みが印象に残った。2024/06/27
チャーリー
5
近代の機能主義が建築に「官僚」的に一義的な機能を規定したことにより、中間団体なしで個人は国家に直接的に結びつけられた。山本は古代ギリシャからさまざまな住居を参照することで現代において「私」と思われていた空間に「公」があったことを発見していく。指摘は非常に面白いが、一方で家父長制など家庭内のヒエラルキーや地域におけるムラ社会的な小さな目に見えにく権力構造に関しては言及が薄い。もっとも官僚制による大きな権力を指摘する上でその手の権力を指摘することは二義的な課題かもしれないが。2016/10/20
アメヲトコ
5
公と私をつなぐ「閾」の空間を失い、消費財に過ぎなくなってしまった現代住宅を批判し、地域社会圏の空間を提唱するもの。議論の枠組みがアレントに全面的に依拠しすぎなのが気になりますが、主張点には同意できます。もう少し自身の仕事や試みを前面に出して語った方がより面白くなったかも。2015/05/04