内容説明
“しかと定めもつかぬ颶風が荒れ狂い、その風の吹くまま”右へ左へ流されてゆく若者たち。荒涼たる時代の空間をえがきだして、戦中の暗い時間の中に成長する魂の遍歴の典型をつくりだして、青春の詩と真実を生き生きと伝える自伝長篇完結篇(第三部・第四部)。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
28
車中でスマホを通じて、読書メーターに感想めいたことをメモってきた。 その都度、感じたのは、堀田の素養の深さと、何処までも自分の知性と感性で考え生き抜く強さ。 本書は自伝風の作品で、虚構の部分も多いようだ。 というか、虚実を自在に往還する、類を見ない作品足り得ている。 こういう国際性も豊かな思索の人が、視野の狭さが息苦しさに繋がっている富山に生まれていたとは、驚きである。 2018/11/14
川越読書旅団
21
第二十六回芥川賞を「広場の孤独」で受賞した著者、堀田善衞の自叙伝的長編作。主人公が北陸の田舎から上京し、ニ・二六事件に遭遇、日本が先の大戦に邁進する渦中、同世代の左翼的思想家(詩人)達との交流を描く群像劇的要素も含む物語。当時の戦争や軍国主義に対する人々の想い、若者の想いがビビットに描かれとても興味深い。引き続き堀田作品に注目したし。2023/08/05
かふ
16
下巻のエピローグは『伊勢物語』から始まる。それには明確な意図があり『伊勢物語』の「昔男」が余計者で官職から外れ、その中で女たちとの浮名を流す文化人として描かれている。その時代は平安末期による激動の時代の先駆的な人物として、そんな中で自らの欲望と愛の歌を時代とは関わりなく歌う姿勢にあるのだ。それは若者が生きた言論弾圧の治安維持法の中で詩を歌うことの難しさとリンクしている。そこでは詩=死とつながっている。それよりも生を歌いたい気持ちの現われでもある。2022/08/03
しんすけ
15
二二六事件の翌日から始まった物語は、下巻に至り軍国主義の暗い影に満ちてしまった。若者の周囲では憲兵たちが監視の眼を光らせてる。憲兵の一人から日本軍が真珠湾を攻撃したことが伝えられ、アメリカとの戦争が始まったことを知る。憲兵たちは嬉々としているが若者には何の感慨いも生まれない。 思考の消失、いや思考すること自体が疎ましく感じられる時代だったに違いない。 若者はドストエフスキーに親しみ始める。『悪霊』をユーモア小説のように読む姿は、その時代が深刻なものを敬遠する風潮に満ちていたことへの逆襲の様にさえ観える。2021/12/15
風に吹かれて
10
国は開戦した。心も体も捧げなければならない国。徴兵されれば、再び故郷に帰ることができる日がくることをいささかも望めない戦争。人の、心も体も捧げることを要求する国とは何なのか。そういった国での個々の人間の生とは何なのか。主人公と、主人公が関わる詩人たちの、そして主人公が関わる女性たちの生。限られた時間しかないと見据えた日々の生活の中で、心の目は自分自身をしっかり見つめる。第二次世界大戦開戦前後から戦争中を生きる若き詩人たちの日々が、心の芯の勁さの大切さを教える。2018/12/31
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- 和書
- 還暦まで千人斬り