内容説明
生まれ育ったカリブ海の日常生活に潜む底抜けなユーモアのセンスを手がかりに、ラテンアメリカ文学の魅力を『ドン・キホーテ』のスペイン語文学、さらにはコロンブスの“冒険心”まで溯って縦横無尽に解読。数々のマルケス作品を翻訳した著者が、ありきたりの作家論・作品論にとどまらず、世界的文豪の発想力の原点を解き明かす。※新潮選書に掲載の写真は、電子版には収録しておりません。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
39
タイトルと内容が合っていないのは著者と編集者の問題で、謎ときシリーズとして依頼したならば没にすればよかっただけの話だ。そのせいで随分と損をしている。選書になっているが、専門性が薄いので新書の方が読者は獲得できただろう。本書はガルシア=マルケスの独自性を際立たせるのではなく、他の文学とのつながりを示すことで、その奥行きを照射する試みだ。彼の生涯が文章のメインストーリーだが、そこにリョサ、ボルヘスなどの他のラテン・アメリカの作家のエピソードが重なる。それだけにとどまることなく著者の想像力は働き、セルバンテス、2023/11/20
松風
27
作品概説とその背景と評伝。あらすじ程度ならともかく、最後の決めの一文をハイライトとして紹介してしまっているので、未読作品があるうちは読まないほうがよかった。セルバンテスやフォークナー、ヘミングウェイ、ボルヘスやリョサなどはともかく、妙に開高健と司馬遼太郎を引き合いに出すのが気になった。2014/08/22
梟をめぐる読書
23
ガルシア=マルケスという稀代の語り部の作品を、新大陸の発見と『ドン・キホーテ』による近代文学の成立という「前史」まで遡って読み解く。ラテンアメリカ文学の翻訳者としても名高い木村榮一先生が手掛けているだけあって、日本語で読める評伝としては恐らく最高のものに仕上がっている。マルケスは決して魔術的リアリズム一辺倒の作家ではなく、習作時代から晩年まで一作ごとにスタイルの彫琢と刷新を図り続けてきた、という指摘はとりわけ重要だろう。木村先生のご趣味なのか、司馬遼太郎からの引用や日本の幕末話がやたら多いのはご愛嬌。2014/05/26
aoneko
18
興味のあることにしか関心を示さず、自分の感性と直感だけを信じていた少年時代、作家になってからの極貧生活、個々の作品へのアプローチから歴史背景まで多岐に渡っていて、興味深かった。同時代に活躍した作家たちとの逸話も楽しく聞いたけれど、ちょっとだけでてきた村上春樹やオルテガの言葉が妙に印象的だったような。2014/09/01
おおた
18
ラテンアメリカ文学翻訳家四天王の1人、木村榮一先生によるガルシア=マルケス読解。ドン・キホーテ、開高健らを援用しつつ、ガルシア=マルケスの生い立ち(『生きて、語り伝える』がコンパクトにまとまっている)から、各作品の分かりやすい解題まで、1冊あると重宝する。他のフエンテスやコルタサルのようなラテンアメリカ文学の執筆者より、意外にもガルシア=マルケスの方が後れてデビューというのも改めて気付かされる。1300円とお買い得なのもありがたい。2014/08/24