内容説明
「『文學界』にこの作品が掲載されるときは、心配で夜も眠れなかった」(著者談)――本作は雑誌発売と同時に大きな反響を呼び、津村さんの不安を吹き飛ばす賞賛の声が相次いだ。2005年2月に舌癌と診断された、夫で作家の吉村昭氏。舌癌の放射線治療から1年後、よもやの膵臓癌告知。全摘手術のあと夫は「いい死に方はないかな」と呟き、自らの死を強く意識するようになる。一方で、締切を抱え満足に看病ができない妻は、小説を書く女なんて最低だと自分を責める。吉村昭氏の闘病と死を、作家と妻両方の目から見つめ、全身全霊で文学に昇華させた衝撃作。第59回菊池寛賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
shizuka
67
吉村氏の闘病、仕事を抱えながら常に夫の病状に気を揉み、日本中を駆け巡る節子さんの姿に感銘を受けないはずがない。病状は一進一退。吉村氏の辛さに寄り添っていても、辛さがピークの時に気づいてあげることができなかった後悔の吐露、私は節子さんの遣る瀬なさに心が締め上げられ、涙を拭く事すらできなかった。吉村氏の若い頃からの病歴の数々、なぜ夫ばかりと思う気持ちとそれを乗り越えてきたらからこそ世界で一番の作家になれたのだという畏敬の念、節子さんのふた心は梅の香りに運ばれ届けられた。ただただ頭が下がる思い。合掌。心より。2018/02/10
いっせい
59
作家吉村昭のガン闘病を、妻津村節子の視点で綴った私小説。最期は衝撃的とも言えるが、著書が最後にかけた言葉は、“書くこと”を最後まで生業にした夫への、最高のリスペクトだと思う。2024/02/19
kawa
40
弟さんのがん闘病を綴った吉村昭氏「冷たい夏、暑い夏」つながりで、ご本人の闘病の様子を妻である津村節子さんが綴ったこちらに。生老病死の苦しみから逃れないのが人生、その生き方は百者百様だが思い通りにいかないことが普通。医療関係の名作を何作もものにした氏であっても…。粛然とする読後感としか書きようがないのだが、心配して看病をしてくれる奥さまや家族がいることは闇夜の灯火だったのかも知れない。2023/11/16
り こ む ん
40
読友さんの感想から手に取った本。以前の仕事柄、人の終末はたくさん見てきた。自宅療養、病院、ホーム。それぞれに様々な別れをみてきたし、見送りもした。それだけに、この中でもそうなのだけど、病におかされてる本人、看護する人の募る想いと願い。疲労、苛立ちがヒシヒシと伝わる。そして、残される者の、後に思う。後悔、悔しさ、懺悔。もう少し、やってやれば、気付いてやれなかった…。死を受け入れた本人と受け入たくない妻の姿は、闘病記と言うより、胸にしまい込んでいたモノを独白しているように思えた。2016/05/23
mondo
26
紅梅は、吉村昭氏の妻の津村節子さんの記録小説。吉村昭氏の終末を記録した内容だが、自身の思いを重ね、思い出を回想しながら綴られていく。最愛の夫を看取る妻の心情と家族の思いが伝わってくる。最後のページは通勤電車に揺られながら読んでいたが、涙を堪えるのに大変だった。2020/07/25