内容説明
20年の時をへて復活した伝説的な作家・佐藤泰志の文壇デビュー以前の未刊行作品を集成。みずみずしく痛々しい青春を描いていまなお鮮烈な光を放つその文学の誕生をはじめてあかす。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
℃
8
少年と大人の境目や裂け目のようなものが描かれている気がします。夏という季節の光や体に滲む汗が若々しく、一見無為に思える日常や友情も愛しいような気がしてこれが続いて欲しいと思えてしまうのだけれど、どうしようもない出来事が動かせない岩のように現れて現実を一変させる。大人になるのでなく、ならされる。そんな風に思えました。2016/11/17
ふるふる
6
佐藤泰志の初期作品集。作者自身の若さゆえか、主人公の苛立ちを露わにした作品が多いなぁ、という印象。また、えぐい描写も多く、結構しんどかった。『ディトリッヒの夜』が短編集の最後でちょっと救われた感じ。それでも『遠き避暑地』や『光の樹』で描かれる函館の風景には心惹かれるものがあるし、『もうひとつの朝』の主人公の自問自答で終わるあの一文がすごくかっこいいと思った。2016/07/17
amanon
5
二十歳にも満たない時に書いた実質的デビュー作「市街地のジャズメン」に驚愕。解説でも示唆されているように、若くしてこのような完成度をもった作品を書き上げたら、後はもういいかというモードになる可能性もあったのだが、佐藤はそうはならなかった。その後彼が辿った道を多少なりとも知る者にとって、この事実が何とも言えず重たいものに思えてくる。冒頭の三作品があまりに濃厚だったため、残りの作品がやや物足りなく思えたが、解説を読むことによって、よりその味わいが増した気がする。大江健三郎からの影響が強いのが、大きな発見だった。2023/05/09
土偶
3
未刊行の10編の初期作品を収めた短中編集。 作家の等身大のような主人公の他に枯れた爺さん婆さんが次々と登場し、タイトルの「もうひとつの朝」に登場する愛鶏家の大家老夫妻の存在感が半端ない。地元でかつて闘鶏をやってた爺さんのことを思い出した。2025/10/28
世玖珠ありす
3
【きみの鳥はうたえる】以前に書いたものを集めた作品集。18歳の時にこれを書いたのか!と思わせた【市街戦のジャズメン】。あとがきにもあるように、この作品を18歳で書いたという自負が、その後の彼の運命を決定づけたとしか思えない。気負っている感が剥き出しなんだけれど、このように勢いを感じる作品をその後、彼は書けてないと思う。佐藤泰志、始まりの作品集なんだけれど、終わりを映す鏡のような作品集でもある。2014/06/17
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