内容説明
雪子と対照的に末娘の妙子は自由奔放な性格で、男との恋愛事件が絶えず、それを処理するためにも幸子夫婦は飛びまわらざるをえない。そんな中で一家は大水害にみまわれ、姉の鶴子一家は東京に転任になる。時代はシナでの戦争が日ましに拡大していき、生活はしだいに窮屈になっていくが、そうした世間の喧噪をよそに、姉妹たちは花見、螢狩り、月見などの伝統的行事を楽しんでいる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
359
上巻に続いて、今も蒔岡家の人々は世間とは半ば遊離したような生活を送っている。しかし、この巻の最初では芦屋川、住吉川の氾濫で、妙子が危険な目にあったり、板倉との一連のことがあったりはするのだが。小説の相変わらずの退嬰ムードは、ある意味で心地よくもある。四姉妹のうち、長女の鶴子は東京にいて、やや影が薄いが、幸子、雪子、妙子の造型は実に鮮やかだ。読者にもよるだろうが、私はやはり現代的な妙子に魅かれる。もっとも雪子の風情も捨てがたいのだが。ちなみに「こいさん」のイントネーションは、こ(低)―い(高)―さん(低)。2014/03/27
yoshida
219
上巻は三女の雪子を中心に描いていたが、中巻では四女の妙子を中心に描く。妙子は同じ上流階級の啓坊との結婚を予定していたが、啓坊の手酷い裏切りにあう。神戸を襲った大水害で妙子は窮地を板倉に救われる。妙子と板倉は惹かれあうが、階級の差が立ちはだかる。自由恋愛も厳しい時代であった。中耳炎の手術の失敗から、脱疽により板倉は亡くなる。現代との医療水準の差を知る。蒔岡家の四人姉妹をめぐる物語はどう帰結するのか。本作は昭和十年代の関西や東京の風物が知れて興味深い。今は失われた風景や空気感がある。次巻で完結。名残惜しい。2016/09/24
雪風のねこ@(=´ω`=)
152
関西の大雨、関東の颱風など思わず年表を手繰りながら(勿論、地図も見ながら)読了。ウォーキングイベントなどでよく歩いた所なので孤島の様に、濁流の中で浮かぶ車両などを思い浮かべる事が出来た。その中で我が身の危険も顧みず救出に来てくれた板倉に好意を寄せるのも当然と言える。蒔岡家が凋落しつつある時分であるからこそ現実的で旧来の習慣に囚われない考えの妙子なんだなぁ。一方、幸子は分家である為、本家の顔色を伺ったり自分の体裁を憂慮したり、面白い対比と云える。でも妹の幸せを願っての事なんだと思うと微笑ましく思う。2016/09/28
ゴンゾウ@新潮部
142
改めて谷崎潤一郎の人間描写・構成力に魅せられました。当時の女性像を四姉妹で全て描いでいるのではないか。旧家を背負って生きる幸子と職業婦人として生きようとする妙子の対比が良かった。これから物語は暗い時代にむかって行くが四姉妹の行く末に目が離せない。個人的には雪子を応援したいですが。2015/01/03
黒瀬 木綿希(ゆうき)
135
三女雪子の纏まらない縁談を軸に描いた上巻から打って変わって妙子の多難な恋路に重きを置き、水害に襲われ九死に一生を得たり、東京に泊まった際に姉夫婦の家が台風で潰れそうになったりと、純文学からエンターテイメント小説の風合いが強くなった印象。 中巻は文字が小さくなり、1ページあたりの情報量に思わず眩暈を起こすが、相も変わらずツラツラと流れるように綴られる美しい文章がページを捲る手に待ったをかけてくれない。 かと思えば食傷気味になったところで短文と姉妹の心地よい関西弁が挟まれる絶妙な塩梅には恐れ入る。2019/11/21