内容説明
思わぬトラブルに巻き込まれ、火事によって住まいを失くした雫石は、占い師・楓の留守宅に住み込み、働き始める。しかし、退屈も人の権利と言いたげな都会暮らしに慣れるにつれ、山で身につけた力は鈍るばかり。心は不安にふるえる。一方、離婚した真一郎は、あらためて雫石に寄り添い、再出発の途を探るのだった。懐かしい魂の輝きはどこにあるのだろう。『王国』第2部。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
162
さすがはばななさん、人と人とのつながりやふれあいを書かせたら、他の追随をまったく許さない領域にいます。わずか150ページの中にあふれんばかりの優しさと穏やかなぬくもりがつめこまれています。こんなにも穏やかなキモチで人に接することができれば、なんて素晴らしいんだろうと憧れてしまいます。2作目となる本作は主人公「雫石」の更なる成長がゆったりと温かくえがかれています。そんな「雫石」を 支える恋人「真一郎」さんが本作ではナイスな役どころです。やっぱり片岡さんは憎めない人で本作でも、ビシッと決めてくれています。2015/06/18
masa@レビューお休み中
102
不幸に終わりはないのだろうか。悲しみに終着はないのだろうか。どこに行っても人生の到達点はなくて、生きているうちは暗中模索しながら進むしかない。雫石の人生はまさにそれで、ふるさとも家もなくしたのに、ここに来てせっかく見つけたアパートすら火事でなくしてしまう。だからといって、それが人生の終わりではなく、そこから雇い主であり友人の楓の家に住み込むという流れになるのだから面白い。恋とか、燃えるような熱情はここにはなくて、縁側で茶を飲む仲間たちがここにいる感じがする。それはつまりは安心とか安寧の世界なんだと思う。2016/10/21
ヴェネツィア
66
おばあちゃんも楓もいない。真一郎とは恋愛関係にはあるものの、それは何だか植物的な愛だ。雫石がそれを「私はこれからの真一郎くんとの関係がおばあちゃんとの暮らしにとても似ている」と語るくらいなのだから。つまり、この巻はドラマにきわめて乏しいのだ。ばなな自身にとっても、この時期は迷いがあったのではないか。エッセイではないので、あくまでも雫石のフィルターを通して、周縁の世界と人間観が語られている。そして、ひたすらに「語り」なのだ。なお、作中の「マルタのヴィーナス」は、「眠れる女神」の間違いではないだろうか。2012/07/17
風眠
42
〈1〉の続編、楓のアシスタントとして、海外で仕事中の楓の留守宅(事務所兼)に住み込み、仕事の手伝いをはじめた雫石の新しいステージが描かれている。都会という、ある意味で狭い世界のことが分かり始めて、その中でも雫石の持つ野性的な能力を働かせながら、新しいことに翻弄されたり、学習したりを繰り返して、だんだんに今いる環境に愛着が湧いていく感じに共感できた。五感を働かせて、でも自分の大切な物はしっかりと持ちながら、自分らしく生きていく雫石のこれからを応援したい気持ちだ。2012/10/08
MINA
40
「彼は今、大切なものがなんにもないから、とにかく不安をなくすためにとりあえず手術しようと思ってしまっているのだ。それは、とても悲しいことに思えた。」この一文にショックを受けた気持ちが、何年経っても残っている。雫石がホームシックやらで落ち込んみまくっている気持ちも、都会で雫石が不思議に思う「同じ種類で同じ押しの強さを持ち、同じ感じの笑顔と熱意があるけど、どこかがすっぽりと抜けているという職業病にかかっている人」たちのこともすごくよく分かる。今この時に大切な人と存在していられるだけで十分幸せなんだと気付く。2014/04/22