内容説明
日露戦争に従軍した猟師の矢一郎は故郷を離れ、樺太で過去を背負い流浪の生活を続けていた。そんな彼を探し回る男が一人。矢一郎の死んだ妻の弟、辰治だ。執拗に追われ矢一郎はついに国境を越える。樺太から氷結の間宮海峡を越え革命に揺れる極東ロシアへ。時代の波に翻弄されながらも過酷な運命に立ち向かう男を描く長編冒険小説。直木賞・山本賞ダブル受賞の『邂逅の森』に連なる“森”三部作完結編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
105
相剋、邂逅と来てやっと本作。矢一郎の存在が余りにも強い。こんなブレない漢がいたもんだなぁ。生き方が遠回りし、その都度逃げているのだが心が魂が求めている場所へ辿り着くのだ。樺太、シベリア・・凍てつく大地は何を、誰を受け入れるのか。国とか民族とかじゃなくマタギだった本能が愛する人と氷結の森に還るのだ。『森』三部作の中では少し落ちる気がするが(辛口御免)それでも読み始めると一気に読了させられるのは流石。厳しい寒さが背景なのだが、読み手の心を熱くする作品だった。2015/11/18
みも
94
素晴らしい。ロシア革命や第一次世界大戦前夜を背景に、樺太やサハリンの社会情勢を描出する。そしてその推進力は、日露戦争で狙撃力を磨いた元軍人・柴田矢一郎の傑出した人間力。この魅力的な人物に魅了されながら、彼の誠実さに心を奪われる。漁師や樵の仕事ぶりもリアルに描かれていて興味深いが、最も没入させるのは凍結した海峡を犬橇で疾駆するシーン。その臨場感たるや「邂逅の森」のヒグマとの対峙シーンに勝るとも劣らない。「森」シリーズと銘打っているがそこに拘らず、スリリングなハードボイルド作品として読めばその面白さは格別だ。2024/01/21
レアル
77
3部作最後の作品だが、前2作はマタギの生活や熊との「命のやり取り」といった物語だったが、今回は男の壮大な冒険譚といった異質な作品だった。シリーズという事もあり、私が求めていたものとは違っていたが、冒険譚と割り切ってしまえばとても興味深い作品で、日露戦争後の尼港事件を下敷きに描かれたもので、時代に翻弄されながら苛酷な状況で生きる元マタギ主人公の生き様がかっこ良く、かつ緊迫感のある作品で楽しめた。趣は違ったがこちらはこちらで良い作品だった。でもやっぱり、3部作というからにはマタギを書いて欲しかったなぁ。。2014/11/29
アッシュ姉
73
氷点下三十度を超える極寒の地での流浪の生活。平雇いの漁師や樵として、肉体を酷使して働くことで生きていることを実感する日々。前半は『山背郷』に通ずる雰囲気でとても好みで良かったが、中盤からガラッと変わりハードボイルド全開へ。嫌いじゃないし面白かったけど、森三部作としてマタギ小説を期待していたので、シリーズ完結編といわれると微妙。別タイトルの方が素直に楽しめたと思う。主人公は元マタギというより、元軍人といった方がしっくりくるし、秋田の阿仁出身なのに標準語。故郷の言葉は忘れたとは、ぬっしゃー如何すたぁー。2016/08/03
takaC
65
文庫版のユーザー数比で、相剋:邂逅:氷結≒2:10:1なのは、3部の人気バラツキを如実に表しているよね。2015/05/01