内容説明
日本征服の野望を持つ元の世祖フビライは、隣国の高麗に多数の兵と船と食料の調達を命じた。高麗を完全に自己の版図におさめ、その犠牲において日本を侵攻するというのがフビライの考えであった。高麗は全土が元の兵站基地と化し、国民は疲弊の極に達する……。大国元の苛斂誅求に苦しむ弱小国高麗の悲惨な運命を辿り、〈元寇〉を高麗・元の側の歴史に即して描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
104
元寇を高麗の人びとの目を通して描いた作品。大国の元に翻弄される高麗の姿は悲惨で、救いがない。13世紀ごろの東南アジアの物語だが、この小説で描かれる大国対小国の図式は、あらゆる時代のあらゆる地域にあてはまり、普遍的な内容を持った作品と言えるかもしれない。当時の文献が読み下しの漢文のまま挿入されているので読みにくい箇所が多い。それでも透徹した文章には魅力があり、詩人としての井上靖が顔を覗かせていた。人物を描くというより、歴史の流れの非情さをタペストリーして描こうとする作品だと思う。2014/05/10
chanvesa
39
絶望的なまでに支配され蹂躙される高麗の苦悩。そして洪茶丘のスタンスがなぜ祖国に冷酷でありえたのか。その背景は明かされない。内面的な感情の要素はこの小説では排される。その鋭い眼差しの奥に何があったのか。王や、李蔵用、金方慶ら臣下たちは絶望的な状況下で何が国家や民のために最適であるかを探り、言葉を発する。そしてフビライの支配者としての不気味さ、解を見いだすことを避け、狂暴な支配を敷く政治家としての恐ろしさ。引きずり回されるような重苦しさと漢文の読み下し文が差し挟まれることで、息が詰まりそうになる。2016/01/03
金吾
35
○強国に隣接する弱小国の苦悩と悲劇がよく伝わります。国際関係では力は正義なのかなとも思いました。現代は海が障壁にならないので、高麗の状態は参考にデキルト感じました。フビライのパワーにも圧倒されました。2022/03/21
加納恭史
28
あんまり読み進んでいないが、この本は漢文調であり、史実に忠実なようである。なかなか重々しかった。「額田女王」でも中大兄皇子の活躍が目立ったが、その中でも百済を巡り唐と新羅の連合軍との戦い、白村江の戦いは、急ごしらえで軍船の装備も十分でなく、敗れたわけだ。何か朝鮮や中国との外交や戦争が気になったせいか、この本を手に取る。韓国ドラマ「武神」で蒙古との戦いが思い出された。高麗は都を江華島の移し、蒙古と戦かった。蒙古の将軍サルタクの名前があり、悲惨な戦闘で国土は荒れ、サルタクは僧侶の矢で死ぬのは本当のことだった。2022/11/13
カミキリムシ
24
やはり、私の高校の時の読書です。すらすら読めました。小説の内容は、ほとんど忘れました。最近ユーキャンの「闘牛」を聴いてみました。代表作の「天平の甍」は、映画を見ました。「孔子」は、出版の時に講演を聴きました。佐藤春夫が、恩師なのですね。「氷壁」は、先年亡くなった私の兄が購入した本があります。これだけの本を生み出す才能は凄いですね。ドイツの研究者の推薦で、ノーベル賞の候補にもなりました。「孔子」の時の講演でもまだまだ書くことがあると執筆に意欲的でした。立花隆さんも井上靖の作品を中学生の時に愛読していました。