内容説明
本書は純然たる論理演習書ではない。混沌とどこまでも拡がった「歴史」の諸データを関連づけながら、最も合理的で整合的と思われる主張をまとめる実践的訓練である。第二次世界大戦の論理的含意や倫理的教訓が汲み尽くされていないことは、年月を経るにつれ却って新聞などでの扱いが多くなっている事実に示されている。底知れぬ細部が絡み合あった史上最大の戦争を終わらせた〈あの大事件〉について本書が試行的に辿った各ステップは、日常の大小無数の決断・評価・議論にあたって最良のモデルとなるであろう。
(「まえがき」より抜粋)
目次
“戦争犯罪”への多元的アプローチ―ホロコースト・南京事件・原爆投下
無差別爆撃は悪だろうか?―定言三段論法・二重効果
「罪のない一般市民」とは誰だろう?―事実と価値・アナロジーの誤謬
原爆投下はただの無差別爆撃ではない?―関連要因と無関連要因
核兵器は通常兵器より悪いのか?―意図主義
軍事目標としての広島・長崎の妥当性は?―意図(目的)の特定
“目標・日本”は人種差別だから許せない?―ポストホックの誤謬
原爆投下は戦後戦略の一部だったのか?―係留ヒューリスティクス
ヨーロッパ優先戦略は正しかったのか?―行為と出来事の区別・条件付き判断
原爆投下は真珠湾攻撃の報復か?―自然主義の誤謬・逆ポストホックの誤謬・わら人形論法〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Mits
3
この議論の是非はともかくとして(個人的には大部分賛同できるが)、このような技術に基づいた議論はこの設問に限らず実際のメディアの場で広く行われなければならないと思う。現実は、そうなっていないようだけれども…2008/12/04
キュウキュウ
2
応用論理学の演習書でありながら、原爆投下に関する質の高い(しかも中立な)研究書でもあった。本書は全体として論理の力で、原爆投下を肯定するが、あとがきでも述べられている通り分析哲学の手法を駆使して整理された 62 個の論点に丁寧に反論していけば最強の原爆投下否定論を構築することもできるようになっている。2015/01/24
Yuka Mura
2
社会人一年目にこの人の論理学3連作にはまっていた。 久々に本屋さんで見つけて、考えさせられた。 世の中には考えることさえタブーとされることがあり、この本で扱っているテーマもそのひとつ。 しかし、盲目的にそれを自分の意見としてしまって良いのか、自分で考えて納得した結果としなければ、上滑りしたものにしかならないのではないかと思った一冊。 この本と『新世界より』を合わせて読むと、正義とは相対的なものでしかないのだとゾッとする。 人には考える力があるのに、なぜとらわれてしまうのだろうか。 最近なぜあの戦争に
Meistersinger
2
東京裁判を「あくまでも司法作業の皮を被った政治行為」として遡及法の批判を退けるところは少し強引か。米国側の合目的性と日本側の原爆によって得た利益を示して「原爆投下を肯定するための論理構築」をみせてくれる(被爆者の写真などのイメージによる衝撃を「非論理的」とするところは納得できる)。2012/03/17
Hirotaka Nishimiya
1
あのアメリカによる広島長崎原爆投下は正しかったのか?というとてもセンシティブな話題を論理学的に議論していく異色の作品。この書の中での結論は非直感的であるし、細かには強引な論理構成もあるように思うものの、理論を理解するのは容易いロジカルシンキングを、活用するとはこのことかと、実例をもって示している稀有な内容。これから有用な議論をするためのヒントが随所に存在している。2019/04/16