内容説明
日本橋「いせ辰」の手代・英助には誰にも言えない秘密があった。母が死に際に遺した「お前のお父っつぁまは北町奉行の遠山様なのだよ」という言葉である(表題作)。北斎の娘・お栄の、婚家と実家を行き来する胸の内(「酔いもせず」)。名家老であり、その画業で“松前の応挙”と讃えられた蠣崎波響の選んだ道(「夷酋列像」)など、実在の人物に材をとった時代小説5篇。所収の「シクシピリカ」は、著者の『蝦夷拾遺 たば風』の「錦衣帰郷」と呼応する佳品です。
感想・レビュー
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じいじ
103
5編の物語、断然!【桜花を見た】が良かった。名奉行と江戸町民から慕われる遠山左衛門尉景元の隠し子・英助を主人公にした話。宇江佐さんの傑作の一つに加えたい作品です。ひたすら独り身を貫いた母が、死の淵で告げたひと言—「お前の父親はお奉行の遠山様だよ」と。何といっても、この物語のクライマックスは、遠山奉行の屋敷で父子だけで交わすの秘密会談です。まさに二人の千両役者ぶりの名演技に、読み手はしみじみと酔いしれます。眼がしらに熱いものが込みあげてきました。絶妙なタイトルの解明は、ご自身でお楽しみください。2021/09/06
遥かなる想い
95
江戸を題材にした短編集である。 表題作は 遠山の金さんの落とし胤の英助の 物語で ホンノリとあたたかい。 表題作ほか、葛飾北斎の娘などを題材に、 江戸の文化を情緒豊かに描く… やや著名人との関わりが薄く、強引な 感じもするが、江戸の雰囲気満載の 作品集だった。2024/03/06
ふじさん
91
再々読。表題作「桜花を見た」は、名奉行と謳われた遠山金四郎の隠し子をテーマにした面白い設定の作品。「酔いもせず」は、絵師北斎と娘お栄親子を描いた作品で、お栄の知られざる実像と北斎親子の情愛がユーモア溢れるタッチで描かれていて楽しめた。「夷酋列像」は、松前の応挙と呼ばれた夷酋列像を描いた蠣崎波響の生涯を描いた力作、この作品で初めて彼の存在や業績を知ることが出来た。北方探検家最上徳内をモデルにした「シクシピリカ」等、実在の人物をモデルした彼女には珍しい時代中編小説。知らない事実や出来事を知ることが出来た1冊。2025/02/18
greenish 🌿
64
日本橋「いせ辰」の手代・英助に、母が死に際に遺した「お父っつぁまは北町奉行の遠山様なのだよ」という言葉。果たして真相は? 葛飾北齋の娘・お栄、松前の応挙と呼ばれた蛎崎波響など、実在の人物に材をとった5編の時代小説集 ---表題作『桜花を見た』あの遠山の金さんに隠し子!?という穏やかならざる題材なれど、父と子の互いに思いやって後の別離にホロリとさせられる。あの《桜花》との対面の描写は、さすが宇江佐さん!と唸ることしきり。 歌川国直『別れ雲』、北斎娘・お栄『酔いもせず』の2作品、浮世絵の装丁にも惹かれた。2014/03/22
shizuka
60
遠山の金さん、国直、お栄と北斎の話が怒濤の如くよかったな!後半、松前藩2作は馴染みがなくてちょっと読むのに手間取った。アイヌ文化について触れていて、本当だったらもう少し親身になって読んだ方がいいなあと思ったんだけど、なんせ名前が難しい。アイヌ語はきれい。兎に角前半3作はもう、素晴らしすぎて震えた。国直の話は切ないなあ。現代だったら振り切って、一緒になれたのかなあ。お栄は元が日向子師匠の「百日紅」ってんだから、そりゃ興奮する。北斎と善次郎についてもっと掘り下げられていたし、善次郎にまた少し近づけた気がする。2016/11/02
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