内容説明
落語は本来噺家の芸によるものだが、高座で演じられる身振り手振りの可笑しさにとらわれていては、落語の奥に潜む人間の生態を見失うことになりかねない。本シリーズは、「落語」の素型を損なうことなく、そこに溜めこまれた人間の想いを写し取るように構成した新しい試みです。まずは「春の巻」。玉子焼きはタクアンでかまぼこは大根、もちろん酒は薄めた番茶。「近々いいことがあるようですよ、湯飲みの中に酒柱が立ってます。」おなじみ「長屋の花見」など春気分あふれる25話。
目次
猫久
たらちね
湯屋番
浮世床
長屋の花見
三人旅
三方一両損
饅頭こわい
粗忽の使者
明烏〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chantal(シャンタール)
86
お花見が舞台装置になっているなど、春らしい内容の落語を集めた、正に読む落語!ほとんどがセリフなので、時々誰のセリフなのか、わけが分からなくなる時もあり、噺家さんはこれを一人でやるわけだから、やっぱりすごいなあと。寄席に行ったことがなく、一度は行きたいと思っているのだが、きっと生で聴いたら楽しいだろうなあ。大岡裁きの噺はやはりホロっと来るし、「猫の皿」はうまい!と膝を打ちたくなる。「百年目」の旦那の優しさにも思わず目頭が熱くなる。新鮮な読書で楽しかった。2019/03/15
れみ
84
落語百選・春編(25話)。立春から読み始め。「長屋の花見」「まんじゅう怖い」「明烏」「大工調べ」など、知っているお話もたくさんあったけど、ここで初めて知ったものも多かった。とくに「三方一両損」には財布を落とした側と拾った側、そしてその喧嘩を裁くことになったお奉行さま、みんながそれぞれに粋でかっこよくてワクワクした。それと「松山鏡」は以前同じようなお話を狂言の会で見たことがあったので、滑稽さを描くというところで狂言も落語も共通しているんだなあと言うところをあらためて感じることができたのも良かった。2020/03/16
ヴェルナーの日記
77
本来なら、寄席やTV、ラジオ等で生の声を聞くのがベストだが、最近ではTVはおろか、ラジオでもなかなか放送されない。ましてや寄席ともなると、足遠い有様。せめて本でも読もうかと、本書を手にとった。自分的の面白かったのは、女房の鑑をネタにした『猫久』。長年武家に奉公したした女房が難しい言葉で、亭主と会話が噛み合わない『たらちね』、大岡越前の名裁きを描いた『三方一両損』、度忘れ激しくて慌て者を描いた『粗忽の使者』、ちょいと色っぽいネタ『明烏』、そして定番の『饅頭がこわい』などが俊逸が多数収録されてる。 2015/12/07
依空
63
落語の基本的な作品100本を四季に分けて刊行したシリーズの「春」。滑稽ものあり人情ものありと収録されている内容はバラエティに富んでいて、文章で読んでいるだけでも面白いです。でもやっぱり、落語家さんの噺として聞いたほうが笑いが止まらないくらい面白いんだろうなぁ。有名だけれど何となくしか知らなかった「饅頭こわい」を読めたのが大きな収穫でした。読んでいる時点で多分そういうことだろうなぁと思っていても、途中のやり取りに笑えたのは「粗忽の使者」。「猫の皿」は短い噺ながらもサゲが秀逸で、思わず噴き出してしまいました。2017/05/14
桜もち
55
これはすごい!古典落語の名作を四季に分けて書き起こしている(この巻は春)。だからいわば活字寄席。いちいち笑わさせてもらって、救われた。大家さんと、家賃滞納している大工の攻防『大工調べ』が一番笑った。『百年目』も旦那と番頭さんの人情噺が良かった。登場人物の会話も軽妙洒脱だったり、噛み合わなかったりで、そんな会話あるかいと思いつつも、なんでも真に受けて真面目すぎて自分でも困るような人には役立つかも。『よし、向こうの家主の顔は立った。しかし、おれの顔はどう立てる?』『なるほど、立てにくい顔だ、丸顔で…』2018/01/12