内容説明
兼七は腕のよい雪駄職人だったが、酒が原因で問屋に見放された。そんな酒浸りの父親が嫁入りの邪魔になると娘に泣きつかれた母。夫はもう、常人にはもどれない。けれど見捨てることができようか──夫婦、親子の愛情の機微を描く表題作。岡場所に身を沈めた幼馴染と再会した商家の主人、5年ぶりにめぐりあった別れた夫婦、夜逃げした家族に置き去りにされた寝たきりの老婆……。市井に生きる男女の哀歓を、鏤骨の文章で綴る珠玉の名品7篇による短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
461
【海坂藩城下町 第6回読書の集い「冬」】どれもこれも、冬休みでダラけたわたしの気持ちに少しずつ引っかき傷を残していくような短編集だった。当時の女性に比べ、生き方に選択肢の多い我が身に感謝しつつ。この中では地味な作品に入るであろう『永代橋』だが、恋愛感情の終わった男女の、温度差が胸に沁みた。とっくに終わっていることにしがみつくのが男。女の方では男の下の名前すら思い出せないこともあるのに。2020/12/27
ヴェネツィア
103
7つの短編を収録。表題作以下、そのほとんどは江戸の裏長屋に暮らす下層の町人たちを描いたもの。登場する男たちは、ことごとく不甲斐ない(若干の例外はあるが)。近松の世話浄瑠璃の主人公たちも、ことごとく頼りないのだけれど。「遠ざかる声」は、ちょっと江戸落語の人情噺のような趣き。2012/05/16
タイ子
102
古い物で40年前の作品からなのに違和感覚えず読めるのも時代小説の醍醐味。夫の失踪、幼馴染との再会、別れた夫婦の再会など、どれも男女の心の機微を描いている中で2つの作品が特異で面白い。「踊る手」の少年の優しさが胸を打つ。夜中に一家総出で夜逃げをした長屋の家族。家具も何もない家に残された一人の老婆。長屋の住民が差し入れる食事を一切受け付けない。生きる希望を失った老婆に少年が手を差し伸べる…。ラストの情景がたまらなく愛おしい。「遠ざかる声」はユーモラスでニヤリとさせられる。たまにはこんな突拍子もない物語もいい。2022/02/22
おしゃべりメガネ
101
単行本未収録の短編7作をおさめた一冊です。こんな素晴らしい作品群が未収録だったとは、改めて藤沢先生の才能に驚愕してしまいます。短編集なので、作品それぞれに当然雰囲気やテーマはばらばらではありますが、相変わらず人情レベルはしっかりマックスでキープされています。藤沢さんにしてはちょっと珍しい作風のものもあり『遠ざかる声』なんてのは、ある意味コメディホラーな感じです。どの作品もやはりいつの時代も女性は強くタフだなと感じさせてくれます。逆に藤沢さん作品に登場するダメ男はホント、徹底したダメっぷりにイヤになります。2025/05/18
ふじさん
94
江戸の裏店を舞台にした市井の人々を哀感を描いた多彩な手法で描いた短編集。酒浸りで失踪した夫がいるにもかかわらず、一時若い男に心が動いた女、岡場所に身を沈めながらも、健気に生きて来たしたたかな幼馴染との再会を果たした気弱な男、5年ぶりに巡り合った別れた夫婦、夜逃げした家族に置き去りされた寝たきりの老婆、死んだ妻の嫉妬に悩まされながらも新たな妻を迎える男等、登場人物の個性は様々。ユーモアとペーソスを湛えたいつもとは違う趣のある作品で、面白かった。2023/11/04




