内容説明
シーボルトの弟子として当代一の蘭学者と謳われた高野長英は、幕府の鎖国政策を批判して終身禁固の身となる。小伝馬町の牢屋に囚われて五年、前途に希望を見いだせない長英は、牢名主の立場を利用し、牢外の下男を使って獄舎に放火させ脱獄をはかる。江戸市中に潜伏した長英は、弟子の許などを転々として脱出の機会をうかがうが、幕府は威信をかけた凄まじい追跡をはじめる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ehirano1
104
長英が直面した強烈な「タラレバ」と「才が身を亡ぼす」に息を呑みました。これは長英の判断ミスなのか運命なのか・・・・・にしては恐ろしく、あまりにも恐ろしく難しい。そしてなんという運命の悪戯・・・・・。2022/10/24
キムチ27
69
幕末の蘭学者・シーボルト事件・蛮社の獄で斬首としか知らなかった。初読は子育て時期ということからあっさり終えたのだろうか、初読の感覚。上は越後直江津で終わる。13年逃亡を続けられた長英。ITが無い事で捕縛の手は緩いと思いきや、鳥居の執念ともいえる執拗さ、江戸期のねめ回すような民の眼と言い難儀の極めつけ。事実を知っているだけに読むのが恐く、辛く、頁進まず。関わりを持った人々の大半は極刑等。にも拘らず、手を差し伸べる縁は彼の人柄か?事実間を埋めるには乏しい資料に氏の羽が生えている。リアリティの煌めきに驚嘆2021/01/21
ともくん
68
吉村昭が描く、逃亡物語は、本当に息が詰まるような緊迫感で、リアリティがすごい。 どんな取材をすれば、ここまで迫真迫る物語が描けるのだろうか。 他にも、逃亡を描いた物語にも当てはまる。 物語にグッと引き込まれてしまう。2020/08/31
ゆかーん
58
職場の友達に勧められて読んだ一冊。シーボルトの弟子である『高野長英』は、幕府の鎖国政策に反対した結果、老中の水野忠邦の命により捕まってしまいます。脱獄したいと願う彼の熱意に答えた下男は、獄舎に火を放ち逃亡を成功させました!しかし、ここからが大変。多くの弟子を頼りに、古今東西を転々とする長英。乞食のようにみすぼらしい姿ですが、弟子は誰一人嫌がることなく彼を匿ってくれるのです…。幕府の厳しい捜索にも関わらず、弟子達が協力して、尽力を尽くす姿に感動しました。このまま逃げ続けることはできるのか、下巻が楽しみです!2016/09/04
金吾
49
○脱獄から逃亡生活ですが、今のところ兵書の翻訳には至っていません。牢生活からの詳細な記述は臨場感を増していきます。素晴らしい能力の人間を罪少なくして投獄する不条理を感じると共に目的があるとは言え周りを捲き込みしかも少しまてば脱獄の必要性もなかったことに悲劇を感じます。2022/07/25