内容説明
男嫌いのお紺と、町火消人足の善十が惚れ合って、お互いの半身に下り竜、上り竜の入れ墨を彫った。だが、善十は吉原の遊女を殺めてしまった。お紺も、善十の逃亡を助け、追っ手三人を矢立仕込みの匕首で……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Schunag
9
笹沢左保の時代小説シリーズにハズレなしなのだが、なぜか読み逃していた。名作『木枯し紋次郎』『見かえり峠の落日』などと同様、著者一流の股旅物。とにかく笹沢左保はキャラ立てが絶妙に巧く、紋次郎が楊枝、地獄の辰が鉄の長十手なら、お紺は老刀鍛冶が贖罪の念を込めて造った「仕込み矢立て」、左手でぐいと引けば小太刀が姿を現わす。紋次郎の冷たい絶望、地獄の辰の激烈な復讐心に相当するお紺の推進力は、「恋は盲目」にも程がある善十なる悪党への恋慕で、善十のクソぶりを一向に認めないお紺が奇妙に可憐な印象をもたらす。2024/05/14