内容説明
性に耽溺し、政治に陶酔する右翼少年の肖像『セヴンティーン』。痴漢をテーマに“厳粛な綱渡り”という嵐のような詩を書こうとする少年と青年Jを主人公に、男色、乱交などあらゆる反社会的な性を描き、人間存在の真実に迫る問題作『性的人間』。現代社会の恐るべき孤独感を描いた『共同生活』。政治的人間と性的人間との交錯に、60年安保闘争前後の状況を定着させた3編を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
270
再読。60年安保前後に書かれた3つの中編を収録。いずれの作品でも、主人公は社会と奇妙な接点においてしか対峙できない。そして、政治的にはほぼ正反対なのだが、これら一連の作品(特に『セヴンティーン』)は三島文学との近接性を感じさせ、あらためて彼らは同時代を生きた(60年安保当時、三島が35歳、大江は25歳)のだなあと思う。61年発表の『セヴンティーン』には、「ナチスの親衛隊の制服を模したもの」に身を固め「クーデターをひきおこす力になりたい」と希望する「おれ」が語られている。後年の三島を予見しているかのようだ。2012/07/02
遥かなる想い
146
「性的人間」という題名がついた本を堂々と読める程、私は大人ではなかった。そのため、ゆっくり読むことができず、なぜか読みながらあせっていた。例えは悪いが、エロ本を見る時と同じ感覚である。青年の性への欲望を描いた小説は多いのだが、本作品は読んでいて少し変な感覚があり、よくわからなかった。2010/06/19
ナマアタタカイカタタタキキ
88
隠蔽しようとして翻弄されようと、誇らしげに掲げるようになろうと、人は生まれながらにして身体の中心にそれぞれ縫い付けられた具物の呪縛からは一生逃れられない。しかし具物は決してその人間そのものたり得ない。そこに他者の視線があるからこそ、それをわざわざ隠したり逆に誇示したりするが、それとどう向き合うか、そしてどのような表現方法を採るか、それこそがまさにその人本来の在り方となっていく…そんなことを漠然と考えさせられた。どの話にも共通しているのは、ハッピーエンドとバッドエンドが綯い交ぜになったような複雑な読後感。→2020/12/18
nakanaka
84
「平凡パンチの三島由紀夫」を読んで山口二矢を知り、大江健三郎が彼をモデルにしたこの作品を書いたことを知りました。表題である「性的人間」とお目当ての「セブンティーン」と「共同生活」の三篇。凄い作家であることは疑いようもなく、個性的な登場人物は素より変態的なことや滑稽なことの表現が並ではない。一番印象深かったのは「性的人間」でした。「セブンティーン」は後編の「政治少年死す」があっての完結なんでしょうね。終わり方が中途半端だと感じました。諸事情により世に出ていないというのが残念です。読んでみたかったなぁ。2015/12/06
yumimiy
78
衝撃的な三篇。読解が追い付かずもうヘトヘト😓ページを捲っては前に戻る。三歩進んで二歩下がる♪でも、頑張りました私。さあ行こう!感想だ。「性的人間」これ未だに減らない列車内の痴漢の心理か。線路に飛び降りフェンスをよじ登る逃走は滑稽だ。「セブンティーン」劣等感の塊である少年は自涜で自己解放、左翼から右翼へ回心し純粋天皇思想まで仕上げた。ま、17歳だからね。やりたい事やればいい。「共同生活」これが一番難解だった。私を46時中見つめている猿、この猿の存在は自己の実存の意識である。暫く、大江さんと距離をおこう😓2024/07/24