内容説明
国際ブッカー賞受賞。不可視化された女性の無限を描くインド作家初邦訳。夫を亡くし沈んでいたはずの母が、ある日突然起き上がる。ヒジュラーの友と時を過ごし、娘と旅する先はインド・パキスタンの国境線。カラスは喋り、路は目撃し、神話や哲学も語り出す。あらゆる境界を越え母は進む―。
著者等紹介
ギーターンジャリ・シュリー[ギーターンジャリシュリー] [Geetanjali Shree]
インドのウッタル・プラデーシュ州生まれ。ヒンディー語作家。大学院在学中に短編小説を発表、卒業後は母語であるヒンディー語を主軸とし、創作活動を続ける。2022年、長編第5作目となるRet Samadhi(原題:砂の三昧)の英語翻訳版Tomb of Sand(砂の墓)が、ヒンディー語圏の作家として初めて国際ブッカー賞を受賞。女性の不可視性が、人間・動物・植物・自然を超越した普遍的な形で描かれていると評された。演劇集団「不協和音」の創立メンバーとしても活動し、女性と女児に対する性加害と暴力を描く「排水溝の少女」などを執筆。現在、デリー在住
藤井美佳[フジイミカ]
東京生まれ。東京外国語大学外国語学部南・西アジア課程ヒンディー語専攻卒。英語とヒンディー語を中心に映画やドラマの字幕翻訳を手がける。2015年より上映会を企画し、東京外国語大学TUFS Cinemaで南アジア映画の紹介を続けている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヘラジカ
43
国際ブッカー賞は本家ブッカー賞と比較すると尖っていて読者を選ぶ作品が多い印象があるが、これは最たる例だろう。魅惑的なプロット、複雑な独創的な文章、そして、非常に非常に読みにくい。ヒンディー語からの翻訳ということで訳文がどうなのかは私にはさっぱり分からないが、とにかく読み通すのに苦労しまくった。ちなみに英訳版のレビューを見ても同じような感想の人が多い。非線形的な文章は私の根気を挫くのにも十分だった。刺激が溢れている作品なだけに細部を疎かにしてしまったのは申し訳ない。いつか再挑戦したいと思う。2025/04/03
Mipo
5
夫を亡くした80歳の母が行方不明になった。皆に背を向け、壁をむいたままの母が。自由な連想で紡がれた言葉を読むうちに現実と幻想の境界があやふやになり、ありえないものがありえるものに思えてくるような、クセになる読み心地。全3章で第1章はインドの『百年の孤独』かも?この物語は作者曰く「放浪者」だから掴みどころがないのが醍醐味。ただ不可視化された女性が風や光になる筋はわかる。特に好きなフレーズは「道は「いや」で開かれる。自由は「いや」でできている。「いや」は楽しい。「いや」はばかばかしい。ばかばかしさは神秘的だ」2025/05/06