感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
MUNEKAZ
19
木簡史料を中心に、漢帝国の西域防衛の日常を紹介した一冊。西域というと砂漠にポツンと楼閣や長城が並ぶさみしくも幻想的なイメージなのだが、実際は差に非ず。緑豊かなオアシス地域を中心に農耕が営まれ、兵士たちが家族とともに同居する賑やかな感も。さらに対匈奴の防衛ラインを維持するために農地が開かれたのではなく、もともとオアシス地帯にあった農地を守るために防衛施設が作られたというのも目からうろこであった。補論で書記の資格を目指して勉強(内職?)に励む兵士の姿が描かれており、古代でも変わらぬリスキリングの現実に嘆息も。2023/03/24
kuroma831
6
漢代に対匈奴の最前線だった西域の暮らしを鮮やかに描く名著。2〜3kmごとに烽燧が連なる長城にどれぐらいの数の兵士がいて、指揮系統はどうなってて、兵士の出身地はどの辺りで、家族はどのように暮らしていて、という細部まで描かれる。大量の木簡情報を元に、当時の給与明細や兵士たちの出勤簿、売買記録までミクロな暮らしが浮かび上がる。とにかく漢代の官僚制度、文書行政の完成度に感嘆する。木簡の運用ルールも非常に緻密で感動した。補編の「書記になるがよい」も古代の文字との関わりが見える非常に良い章だった。めっちゃ面白かった〜2022/11/11
さとまる
5
漢代の匈奴とのフロンティアだった西域警備について、残された木簡史料を中心にその生活レベルで描いている。以前に中公新書で読んだ記憶はあったのだが、内容は全く覚えてなかったので新鮮な気持ちで読めた。今回書き起こされた補篇も合わせて読むと、官僚制が発達してて、辺境の人々にも文書管理能力が求められていたことがよくわかる。2022/05/20
aeg55
2
タイトルから『武帝紀』(北方謙三)の時代の辺境社会についての本と思い読んだ(ただし旧版だった)。2000年前の辺境までも漢帝国の規則が文字によって伝えられて残されていた、という事を知る。西域に長城が伸び並べられた燧により情報が伝達される仕組み。三国志での関羽の狼煙台より300年前に既に存在していたということになる。勝手に考古学ロマン的な内容をイメージしていたが、漢簡に記された漢文の読み下しが主。文字、漢文の情報量の多さを再認識した。2022/09/09
すいか
2
漢代、対匈奴防衛の最前線だった河西地域について、考古学の成果を駆使して、烽火台や長城などの防衛施設の姿とそこに駐在していた兵士や官僚、その家族たちがどこから来て、そこでどんな暮らしをしていたか、丁寧に明らかにしていき、この時代のフロンティアの姿を生き生きと描き出す。エピローグで引用されたローマ帝国支配下のブリタニアへの言及は、東西両帝国の辺境支配の在り方の比較という意味以上に、大帝国の辺境で異民族と向かい合って生きる人々の物語がそれぞれに浮かび上がるようで、歴史の広がりを感じさせる構成だと思った。2021/12/16