内容説明
越中の農民の子でありながら侍を志し、単身、江戸に出て、あらゆる武術と和漢の学問を修めた斎藤弥九郎は、剣術道場・練兵館を開き、文武両道の精神で桂小五郎をはじめ、多くの維新回天の逸材を育てた。いっぽう、盟友・江川太郎左衛門を補佐し、欧米列強の脅威の前に無策な幕府を叱咤しながら、江戸の海防政策の現場で闘った男でもあった。幕末維新という「激動」を、静かに、強力に、陰で支え続けた真のサムライの姿がここにある。幕末三大道場の一・練兵館創設者斎藤弥九郎の鮮烈な生涯を描く長編歴史小説。
著者等紹介
植松三十里[ウエマツミドリ]
静岡市出身。昭和52年、東京女子大学史学科卒業。出版社勤務、7年間の在米生活、建築都市デザイン事務所勤務などを経て、平成15年に『桑港(サンフランシスコ)にて』で歴史文学賞、21年に『群青 日本海軍の礎を築いた男』で第28回新田次郎文学賞、『彫残二人』(文庫化時に『命の版木』に改題)で第15回中山義秀文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ハッチ
24
★★★★★幕末から明治維新後まで生き抜いた斎藤弥九郎という人物の生涯を描いた作品。文武に秀でて、この頃の多くの幕末の志士と関わっている。大塩平八郎、吉田松陰、佐久間象山、桂小五郎など。弥九郎のモットーは「武とは戈を止める事」とし、「武は戦う為にあるのではなく、戈(ほこ)を使わせない為にあるのだ」としていた。今で言う抑止力の考え方だ。確かに武は戈を止める書いて「武」と書く。目からうろこが落ちた気がした。元々、百姓出身なので驕り高ぶらず、人となりが良かったので多くの人に好かれた。勉強になる良い本でした。2016/08/03
なつきネコ
14
江戸三代道場の主として数多くの志士達を教え導いた斉藤弥九郎。私が思うに江戸の三代道場の中でもっとも後世に影響力を与えた人物だとおもう。農民に生まれながらも、苦労の果に練兵館を立ち上げる。一介の剣士ながら西洋学問を学び生涯の盟友、江川秀龍を支えて学者との間にたち頑なな幕府の間に立ち回る苦労は見ていて辛くなる。子供時代の芹沢鴨が出てきた所は変に嬉しいな。弥九郎の最愛の弟子の小五郎への数多くの教養人へと引き合わせ、後の木戸孝允への道を作る姿は尊敬する。ただ、作品としてはダイジェスト感が強いのは残念だな。2019/01/06
あかんべ
12
鉄の志士たちで、反射炉が苦労して建設された様子が書かれていて、静岡県人としては、反射炉と言ったら韮山だろう!と叫びたくなるのだ。ここでやっと韮山の反射炉が出てくるのだが、どちらかというと練兵館の斉藤弥九朗が故郷を飛び出して道を切り開こうとしてる十代の頃の姿が一番印象に残った。2016/06/20
マッピー
11
「練兵館」の創設者、斎藤弥九郎の生涯を描いた小説。最初作者は桂小五郎を書こうとして、資料を読み込んでいるうち彼の剣術の師である斎藤弥九郎の人物に魅かれ、こちらを主人公にして小説を書いてしまったのではないかと思えるくらい、斎藤弥九郎は多彩な人なのだ。どこを取ってもドラマチックだから、ポイントを絞りきれなかったのが難点だった。鳥居耀蔵との確執を中心に書くとか、江川英龍との主従関係を中心に書くとかしてほしかった。だってこれ、評伝ではなく小説なのだから。気がついたらさらさらとお茶漬けのように読み終わってしまった。2018/07/05
サケ太
11
幕末江戸三大道場の一つ「練兵館」の創立者、斉藤弥九郎。「力の斎藤」と称された男。生涯真剣を抜かなかった男。百姓として生まれた彼がいかにして道場を創立するに至ったか。その後の彼が江川英龍の元で当時最新の軍備や防衛の大切さを学び、幕末の重要人物たちと交流していく。彼の生き方そのものである「武」というものの解釈。力をもってこそ対等になれるという考え方。彼の選択や最期まで気骨を感じさせられた。知らなかった人物を知れるという喜び。良かった。2016/10/13