内容説明
世の中が大きく変わりゆくなかで、長い間、生活と心のよりどころとなってきた領地のさくらんぼ畑が売りに出された。やがて屋敷を去る日が訪れ、木を切り倒す音が響きはじめる…。百年先の人間の運命に希望をもちながら、目の前にいる頼りない人たちの日々のふるまいを描き出すチェーホフの代表作を、いま新たな翻訳で日本の読者に投げかける。
著者等紹介
チェーホフ,アントン・パーヴロヴィチ[チェーホフ,アントンパーヴロヴィチ][Чехов,А.П]
1860‐1904。ロシア南部のアゾフ海沿岸にあるタガンローグの小売業の家に三男として生まれる。モスクワ大学医学部に通い、その一方でユーモア小説などをつぎつぎと雑誌に発表した。卒業後、すぐれた人間観察力にもとづく中短編の名手として人気作家となっていき、晩年には代表作となった四大戯曲『かもめ』『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』『さくらんぼ畑』を発表してモスクワ芸術座をはじめロシア演劇界に大きな影響を与えた
堀江新二[ホリエシンジ]
大阪大学外国語学部教授。専門はロシア演劇。2001年には第9回湯浅芳子賞(翻訳脚色部門)を受賞
アナーリナ,ニーナ[アナーリナ,ニーナ][Anarina,Nina]
日本演劇研究者。元、ロシア国立演劇大学外国演劇科教授。モスクワ在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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NAO
58
『桜の園』と聞くと、日本人なら誰もが何本ものソメイヨシノが咲き誇る美しい庭園を思い浮かべるに違いない。どこかの桜で有名な寺だったり、桜が何本も植えられた公園だったりするかもしれない。だが、チェーホフが書いたのは、本当はそんな桜ではなかった。それは実桜で、だから園ではなく果樹園つまりは畑だという。私などは、美しい桜の庭園を思い浮かべ、バラ園かなにかのようにそこを愛しんでいるのだと思っていた。だが、実際には、桜は実を採るための木であり、かつては、その干した実やジャムから莫大な利益を得ることができた。⇒2023/12/08
野のこ
17
「桜の園」を《これはさくらではなくさくらんぼの木である》と今は詩的である事よりも真実を語りましょうと新しい出発にしようと「さくらんぼ畑」に変えた経緯が印象に残りました。なので再読してフィールスの「さくらんぼは干したり、漬け物にしたり、酢漬けやジャムにしたものじゃよ」やラネーフスカヤやアーニャが見つめる白い花が咲き誇るさくらんぼ 畑が記憶に残りました。本文も十分に面白かったけど、あとがきによって深みが増しました。2017/03/18
Miyoshi Hirotaka
12
大正時代に「桜の園」と訳され定着。散り際の良さと重ねて没落地主の滅びの美学として読まれるが本来は喜劇。百年の時を経て「さくらんぼ畑」と訳し直したのはあっぱれ!財産が底をついても浪費を止めず、別れたパリの恋人とのよりを戻すことを考えるラネーフスカヤ。土地を手に入れたがプロポーズし損なう商人ロパーヒン。喜ばしいことや滑稽なことは作品の中にはないが、それが生じる可能性のある状況や事態はある。ユーモアとは「にもかかわらず笑うこと」。悲観の笑い、楽観の笑い。この作品は、笑いには二種類あることを教えてくれる。2013/12/16
保山ひャン
3
「さくらんぼ畑」へえ、そんな戯曲もチェーホフ書いてたのか、と思ったら、これがなんと、旧来「桜の園」の題名で訳されていた戯曲の新訳だった。タイトルをこのように変えた経緯や、中身についての翻訳についても解説があって興味深い。「永遠にさまよえる大学生」「不幸の塊」などスムーズに理解できる翻訳が心地よい。あとがきで、チェーホフはなぜこの戯曲を「喜劇」と名づけたかについて考察されていた。その考察になるほど、と思う以前に、普通に読んでいて面白く、「なぜ喜劇」とひっかからなかったのは、どうしたわけか。2016/07/12
コーキ
2
桜の園だったら読んだことありましたが、何回目でも楽しめるものですね。2015/11/05