内容説明
子供の頃にベッドから見た部屋の記憶は奥深い世界の始まり。共に暮らす魅惑的な異性の心には永遠に近づけない、謎の同行者の正体を探るには奇抜なジャンプを試みるしかない。連続殺人事件におびえる娼婦と潜水艦乗組員の性を超越したかけひきも、シャーマンが蘇らせた死者を連れた国外脱出も、霧深いペテルブルグで麻薬片手に警備につく革命軍兵士も、すべて現実?!死んだ者だけが降りることのできる寝台特急に読者を乗せて疾走するペレーヴィンのみずみずしい才能がいかんなく発揮されたデビュー時代の中短編集。
著者等紹介
ペレーヴィン,ヴィクトル[ペレーヴィン,ヴィクトル][Пелевин,Виктор]
1962年、モスクワ生まれ。20世紀末のロシアに登場して以来、絶大な人気を誇り、国外からも熱い注目を浴びつづけている現代作家。1991年に出版された最初の短編集『青い火影』は数日間で完売。その後も発表される作品はいずれもベストセラーを記録している
中村唯史[ナカムラタダシ]
専門はロシア文学・ソ連文化論
岩本和久[イワモトカズヒサ]
専門はロシア文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
135
初めての作家の作品集です。ロシア文学者ですがこのような作家がいるとは思いませんでした。若干SFがかっている気がするのですが、ある意味、カフカかドストエフスキーを軽くして現代作品を書かせてみるとこのような感じになるのでしょう。短編集ですが私にとっては興味深く読めました。今後も少しづつ読んでいこうかと思います。2016/03/24
ヘラジカ
34
"100 Great Works OF Dystopian Fiction"より。選出は表題作の「黄色い矢」。ロシア社会の諷諭として無限に続く列車旅を描いた作品、と簡単に言って良いのだろうか?大部分読解できていない気がするが、独特の閉塞感や幻想的なラストは素晴らしい。正直に言うと他作品は観念的すぎると言うか抽象的すぎて、首を捻るばかりであまり楽しめなかったのだが、最後のこの一作は鳥肌がたつくらい良かった。とっつきにくいと言う点では、現代ロシア文学を代表するもう一人の作家ソローキンに勝るとも劣らずだと思う。2018/04/02
KI
24
外側が好ましく見えるのは、内側しか知らないからなのかもしれない。2019/12/28
きゅー
22
ペレーヴィンは凄い。まずは「ニカ」と「ターザン・ジャンプ」の2篇で作品に引き込まれる。そしてメインの「寝台特急 黄色い矢」。人生を象徴させる寝台列車はどんな駅に止まることもなく、永遠に走り続け、人々はその中で暮らしている。このイマジネーションの不穏さ、人生の秘密を探り当てようとする探究心、閉鎖的な空間のなかで人々がうごめくさまは後の『恐怖の兜』につながるのだろう。彼の作品は概して難しい。自力では解けない問題に無理矢理に答えさせられているような作品ばかりだが、それがまたナボコフを読むときと同様楽しいのだ。2012/07/22
erierif
12
抽象的だと思ったけど、この短篇集は鉄のカーテンの向こう側だった旧ソ連の若者のリアルな話なのかもしれない。僕という一人称が似合う普通の若者のようだがみな痛々しい。表立って目立たない打撲や内出血やじわじわと深い低温火傷のような痛みを持つ作品が多い。クーデター、ペレストロイカ、エリツィンからプーチン…時代が急激に変わるが、旧ソ連の重苦しい歪んだ世界が『水晶の世界』『ミドル・ゲーム』にある。しかし『ターザン・ジャンプ』がとても瑞々しく『ニカ』は意表を突かれて楽しい作品だった。短篇のペレーヴィンとても良かった。2015/09/10