内容説明
中上文学を(再)開発文学の視座から捉え、ポストヒューマンをも射程に収めつつ、複数の方向に開かれた路地の「仮設」性に、脱国家・脱資本を志向する“路地のビジョン”=中上思想の核心を見出す。犀利な読解によって、中上健次のアクチュアリティを刷新する、俊英による新世代の思想‐文学論。
目次
第1章 (再)開発文学/「戦後文学」と「はじまり」―「一番はじめの出来事」
第2章 動物と私のあいだ―「熊の背中に乗って」「鴉」
第3章 性愛と争闘―「偸盗の桜」「鬼の話」
第4章 被差別の人類学、賎者の精神分析―「石橋」
第5章 (再)開発と「公共性」―「海神」
第6章 路地・在日・スーパーマーケット―「海神」「石橋」「花郎」
第7章 媒介者の使命―「葺き籠り」
第8章 生命の縁起、脱人間/人文主義―『千年の愉楽』
第9章 仮設と雑草―『地の果て 至上の時』
著者等紹介
渡邊英理[ワタナベエリ]
熊本県菊池市生れ、鹿児島県霧島市・鹿児島市育ち。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻単位取得後満期退学。博士(学術)。現在、大阪大学大学院人文学研究科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
猫またぎ
7
地名を聞いて「ああ、あのへんか」とすぐわかるのが地元民の特権か。とはいえ客観的に読みづらい弊害もあろうか、中上には。2023/12/11
chiro
4
路地の作家として記憶されている中上健次。彼が亡くなって早くも30年が過ぎようとしている今、彼が新宮という土地の開発を巡る地方都市で展開される物語を紡いだ諸作についてのこの評を読むにつけ彼のそして当時のまだ我が国が地方に活力を移すことで成長していた時代背景と相似形の力を感じさせられる。今となってはこの地方の凡百な開発が各地で展開されることで国力を失っていく事態に繋がってしまった事を思う時、中上健次はその過程においてどんな物語を紡いだかと思うと彼の早折は誠に惜しい。2022/07/30