内容説明
デンマークからパリにやって来た青年貴族マルテ・ラウリス・ブリッゲに、灰色の街パリは重くのしかかる。混乱する事物、己れの無力への絶望、孤独、生の不安、焦燥、死の影。ブリッゲは、単に“見る”ことから、注意深く“視る”ことを探る。生の可能性を求め、都市、空間、時間、過去、回想、故郷、幼年期、想像力、神、崇高、美、愛…様々な事象への考察を重ねる。現代の孤独な魂の遍歴を記して、精緻な詩的散文の至宝と評される本書は、いま71の洞察に解析され、最新のリルケ/ブリッゲ研究を踏まえた新訳と相俟って、現代の孤独と共振する。詳細な註解を付し、71の洞察の意味を問い直されて、“現代の不安の書”とされた手記は、洞察ののち、マルテ L.ブリッゲが辿り着いた“存在の場”を開示して、ロマンの極北となる。
目次
マルテ・ラウリス・ブリッゲの手記
遺稿(一九〇四年/一九〇九年)より(導入部の草案(一九〇四年)
トルストイに関する草稿(一九〇九年))
著者等紹介
塚越敏[ツカゴシサトシ]
ドイツ文学。慶応義塾大学名誉教授・日本翻訳家協会理事。著書『リルケとヴァレリー』(青土社。芸術選奨文部大臣賞受賞)
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感想・レビュー
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いやしの本棚
11
長い長い時間をかけて、何度か中断しながらも、やっと読み終えた。この未知谷版は、とにかく註解が充実している。また巻末に<一角獣をつれた貴婦人>の絵が、モノクロでも付されているのは嬉しい。象徴的というか、観念的というか、筋のない長篇であるためなかなか読み進まないが、途中でシモーヌ・ヴェイユを少しだけ読んだことで、おぼろげながら見えてきたものもあった。リルケの思想は理解できていないけれど、とても美しい表現や情景がたくさんあり、クリスティーネ・ブラーエの亡霊を見る場面など、やはり忘れがたい。2016/05/30
Kota
4
『マルテの手記』はかなーり昔に新潮文庫版で読んだが、作中にも現れる「貴婦人と一角獣」の装幀と、詳細な訳注の追加に誘われ購入。訳注は「わかりにくい」と言われる本書理解の大きな手掛かりとなる。キーワードは現実界と実在界。この両者を行き来し、現実界の果てに実在界を「視る」マルテの行為が作品理解のカギとなる。霊性や神秘主義にもかなり踏み込んでいる。だが訳注が文中に挟まれていて、どうにも作品に没頭しづらい。訳も詩情より正確さ重視らしく、詩情ならやはり新潮文庫版か。本書で知解してから新潮版を味わうのがベストかも。2019/06/20
コウ
2
「人々は生きるためにみんなここへやってくるらしい。しかし僕はむしろ、ここでみんなが死んでゆくとしか思えない」...の一行で始まる断章形式の名作です。本年2月に亡くなられた塚越敏さん訳の『マルテの手記』。ドイツ文学者であり特にリルケ研究で名高い方でした。90歳……大往生ですね。底知れぬ孤独というものがどんなものなのか怖ろしいまでに分かります。けれど私はそこに希望も感じるのです。★★★★★(★★)2008/06/21
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