内容説明
後半生を過ごした鎌倉をうたった詩とエッセイ全33篇。路地をさまよい、中世の死者たちに思いを寄せる。野の花を愛し、海の言葉に耳を傾ける。寺の境内で昼寝し、ブンカジンのいない居酒屋で相模の地酒を味わう。詩人の魂は、今日も鎌倉を歩いている。
目次
春
見えない春
さかさ川早春賦
咲く
偕楽
鎌倉山のダンディなライオン
滑川午睡歌
ヒグラシ
海の言葉
一品香―散文詩風の海〔ほか〕
著者等紹介
田村隆一[タムラリュウイチ]
1923‐98。東京生まれ。十代で詩を書き始める。明治大学入学後、学徒動員で海軍航空隊に配属される。1947年、鮎川信夫、北村太郎らと『荒地』創刊、戦後の現代詩を牽引する。1956年の第一詩集『四千の日と夜』、1962年『言葉のない世界』(高村光太郎賞受賞)が高い評価を受ける。1970年に東京から鎌倉へ転居し、終生暮らす。死の直前に刊行された『1999』に至るまで生涯にわたって詩作を続けるほか、評論、随筆、翻訳なども数多く手がけた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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アナーキー靴下
59
詩人田村隆一が愛し、1970年から終生過ごした鎌倉。田村が残した作品の中から、鎌倉を感じさせる詩やエッセイをまとめた、という一冊である。鎌倉という土地、自然、季節の移り変わり、住まう人々の躍動…。そうしたものに目を向けているからか、詩とエッセイの境界線も曖昧に感じる。タイトル通り、田村隆一の鎌倉散歩をそばで見ているような、言葉たちは、詩人のつぶやきであるような、そんな味わいである。いくつかの詩は他書で読んだ気がするが、この本のまとめ方は素敵だと思う。このあとがきでもエリオットと荒地について書いてあった…。2021/03/04
たま
42
田村隆一が鎌倉について書いた文章や詩を集めた本(2020年刊)。田村は1970年から98年に亡くなるまで鎌倉に住み、山、海、路地を歩き、江ノ電に乗り、四季の花や酒や人々を楽しんだ。「実生の椿の老樹が好きだ。/野の小さな花が好きだ。…海に出れば、春の潮。」「そんな路地が、ぼくは大好きだ。」この明るさ、肯定感、機嫌の良さ。山と海と両方ある街は良いなあと素直に羨ましくなる。表紙は笑顔の詩人の全身像で、他にも写真が3枚。この気さくで都会的な雰囲気が今なお詩文集が出版されている秘密なのだろうか。2022/02/08
かふ
16
作家の地元案内的な文学に最近惹かれている。わかりやすいのは永井荷風の江戸情緒残る下町散策の文学だが、田村隆一も鎌倉に中世の面影と近代化されていく成金(バブル時代)の観光地・造成地としての二面を見ている。消えゆく鎌倉の街は、その名前に中世の面影を残す。大通りの渋滞を避けて細い路地に入るとまだまだそうした鎌倉を感じさせる場所があるという。鎌倉には様々な山があり(丘という感じなのだが)、そこをてくてくとどこまでも上がっていく田村隆一を想像すると、やっぱこの人はダンディーなのかもしれないと思ってしまう。2022/11/03
ryohjin
7
書店をぶらつきながら、折に触れて訪れた「鎌倉」の題名に惹かれて購入しました。鎌倉に在住した詩人が、鎌倉散歩に導く詩とエッセイです。季節のうつろいや鳥や花を描きながら、小路の飲み屋も現れるのは住んだ人の特権と思い羨ましく感じました。鎌倉は武家政権が滅びると一漁村に戻ったようで、中世以来近世、近代を飛び越して、横須賀線の開通でいきなり現代にスリップしたという指摘から、鎌倉の風景を思い浮かべると、この土地の一面が理解できたように思います。2021/12/04
Inzaghico (Etsuko Oshita)
6
本書はさまざまな媒体に寄稿した、鎌倉についての詩と散文を集めたものだ。「牡蠣」という詩で「この世界に抵抗しようとするなら/インタネットのハッカーになるよりほかにない/むろん/ハッカーは地動説の人でなければならない」という文章が出てきて驚いた。インターネットと一番遠い人物だと思っていたから。そもそも、インターネットが人口に膾炙したときに田村はまだ生きていただろうか、と思って調べたら、この詩が書かれたのが1998年、亡くなった年の詩だった。2021/06/17
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