内容説明
この眩暈を止めなければ、この無意味な死を―ヴァカンスの倦怠を、不安に一変させる美青年、アランとは誰なのか?グラック初期長篇。
著者等紹介
グラック,ジュリアン[グラック,ジュリアン] [Gracq,Julien]
1910年、仏西部のサン=フローラン=ル=ヴィエイユ生まれ。ナントの高校で教鞭を取りながら執筆活動をおこない、1938年、第一作『アルゴールの城にて』を発表。アンドレ・ブルトンに賞賛される。第二次世界大戦で動員されるが、補虜となり解放される。1951年、『シルトの岸辺』を発表、ゴングール賞受賞作に選ばれるが、受賞を拒否
小佐井伸二[コサイシンジ]
1933年生まれ。作家、フランス文学者。京都大学文学部フランス文学科卒。青山学院大学名誉教授。1962年、「雪の上の足跡」で芥川賞候補(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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内島菫
27
ブルトンに連なる人だけあって、風景描写がシュールな繊細さと例えに纏われており、意味を取るよりも偽装し孤立した雰囲気を楽しむ作品のように感じた。人も物も、美しくて子どもっぽく残酷なものだけを選りすぐり、海と森と空と城と夢の中に閉じ込めたような世界。一種のおとぎ話であるだろう。陰鬱や倦怠というよりも、柔らかい意味では世界の儚さを鋭い意味では死の引力を全体的に感じ、少し怖かった(アランの名が、エドガー・アラン・ポーからとられているのがよくわかる)。これらすべてがアランが死の直前に見た夢であっても不思議ではない。2018/11/27
mii22.
22
美しい装丁に惹かれ手にしました。海辺のホテルで夏の休暇を楽しむ数名の男女の前に現れた美青年アラン。彼の謎めいた得体のしれない存在に不穏な空気が漂いはじめ、それまでの均衡が失われ崩れていきます。アランの正体とは...。ミステリアスで美しく気だるい感じが好きな世界ですが、残念ながら私の読解力では充分に楽しめたとは言えません。(ちょっと悔しい)比喩の多い文章に時にはうっとりしながら時には苦戦しながら読み終えました。2015/05/23
ふるい
12
海辺のホテルで静かなバカンスを送る人々を惹きつけ、混乱を招く謎の青年アラン。彼はいったい何なのか?永遠の待機状態、弓を引き絞るあの瞬間のような緊張感がひたすらに続いていき、破滅の予感に満ち…そしてなにかが決壊する。彼は悪魔でも死神でも殉教者でもない、ただの死…?人はなにもかも、死でさえも明るみに出さずにはいられないのだ(探偵小説のように)。2018/07/14
rinakko
11
大変に好みな世界で、引き込まれ惑溺した。なかなか正体を見せないアランに、その向こう側に、いざなわれたくて揺らぐ。(ところで、本文の中では“陰鬱”と出てくるが、タイトルにだけは“陰欝”の字。)2015/04/28
kurumi
5
アランという1人の美青年によって、青白い波の中に閉じ込められたみたいだ。何もない空間、海が呼吸する度に波が泡立ち、太陽の光が裏切るかの様に陰欝な景色を映し出す。彼は結局何だったのか。死という概念であれば、彼は関わる者達に混沌を運び、意識させ、劇薬を投じる。死の手順を完璧に抑えた死神だ。周りの人間達の心が枯れていく様は、アランという何者にも形容できない神秘に吸い込まれた、美を知る唯一の者達の成れの果てなのかもしれない。2022/01/23
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