出版社内容情報
『週刊読書人』2008.9.12付(評者:蔵持不三也氏)
本書は、アナール派の第四世代を代表する著者が、1981年から2000年にかけて書いた論文をまとめたものである。第一部「信仰と祭儀」、第二部「民俗伝統と知的文化」、第三部「主体とその夢」、第四部「身体と時間」二配置された17本の論稿が、解題に当る「まえがき」続いて、闊達なシュミット流歴史人類学の一端を伝えてくれる。尋常ならざる博引傍証と透徹した考察....。これほどの興奮を与えてくれる本に、評者は今までどれほど出会えただろうか。(中略)思えば、ルロワ=ラデュリやレヴィ=ストロースが歴史学と文化人類学の協同を提唱してからすでに半世紀がたつ。本書はその提言を見事に実現した論集ともいえるが、もうひとつの功績は、じつは内省期を迎えて久しい文化人類学の新たな可能性をも端的に提示しているところにある。紛うかたなき力作である。
第44回日本翻訳出版文化賞受賞!
〔選評より〕
原著者はフランス歴史学界の主流、アナール派第四世代のリーダーで中世民俗研究家。アナール派は1929年創刊の「社会経済史年報」を拠点とする歴史学者が提唱したのが由来。従来の歴史は社会の表層に目を向けるのみで、出典の明らかな物語とフィクションの区別さえつかず、新事実の発見で物語を並べ直すだけだと主張する。著者は人間生活に目を向け、中世の教会、農民、都市文化など多極社会の神話、進行、祭儀、舞踏、夢や病気など口承や文書を通して世俗文化の誕生、人間理性の自律過程を探る。こうした問題意識には欧州特有の背景があるとはいえ、わが国でも大いに参考になる。この本はいわば同派の勝利宣言書。同学派の研究紹介に一貫努力されている出版業績も評価された。
目次
第1部 信仰と祭儀(中世宗教史は成立可能か;聖の観念と中世キリスト教への適用 ほか)
第2部 民俗伝統と知的文化(中世文化における民俗伝統;「若衆」と木馬の舞踏 ほか)
第3部 主体とその夢(「個人の発見」は歴史のフィクションか?;ギベール・ド・ノジャンの夢 ほか)
第4部 身体と時間(病む体、憑かれた体;キリスト教における人体 ほか)
著者等紹介
シュミット,ジャン・クロード[シュミット,ジャンクロード][Schmitt,Jean‐Claude]
1946年コルマールに生まれる。パリの古文書学院を卒業。社会科学高等研究学院教授。アナール派第四世代の旗手として、大きな影響力を発揮。歴代アナール派指導者のなかでも、以前にもまして民俗学への接近、したがって民衆的視座がいちじるしい
渡邊昌美[ワタナベマサミ]
1930年岡山県に生まれる。1953年東京大学文学部卒業。高知大学教授、中央大学教授を経て、高知大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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