感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
83
2010年セルバンテス賞を受賞したスペインの作家アナ・マリア・マトゥーテの短編22篇から成るアンソロジー。翻訳は「きらめく共和国」「赤い魚の夫婦」など翻訳したスペイン語翻訳家・宇野和美。どの短編も、子ども目線で貧しく悲惨な境遇を、感傷を混じえず淡々と描き、ラストがその状況に輪をかけて悲劇的である。第一話「幸福」での終わり方から「小鳥たち」「村祭り」「枯れ枝」「迷い犬」「川」など、死で終えるものが多く、読み終えて切ない余韻が残る。翻訳者はスペイン語の児童書の専門店・ミランフ洋書店をオンラインで営んでいる。2021/12/12
かもめ通信
21
収録されているのは21篇。昔語り風の物語たちには、貧しさや不条理な社会にあえぐ人々の苦しく切なげな息づかいが聞こえてくるようなものも多い。とても現実的であると同時にどこか幻想的で、楽しいとか悲しいとかいうこともなく、心温まることも涙流すこともないが、なぜだか忘れがたく、なにかが心にしみてくる気がする。それがなんなのか、今ひとつわからずに、少し間を置いて、同じ話を二度、三度と読んでみたりもするのだが、つかんだと思うと指の間からするりと抜けていくような不思議な読み心地がクセになる。2022/01/19
アヴォカド
15
東宣出版のこの”はじめて出逢う世界のおはなし”シリーズは、だんだん見逃せない度が上がってきている。児童書?ヤングアダルト?というようなシリーズ名ながら、どうしてどうして、あにはからんや。よく知らない国のよく知らない作家の名前がたくさんあって、しかもよくて、世界はまだまだ豊かなのだなあと嬉しくなる。さて、こちらは、スペインの作家の短篇集。結構人が死ぬのでよく考えると悲しいのだが、寓話のように淡々と語られ、そこにたまに小さな美しいもの温かいものがある、という、なんとも不思議なじんわり感に満たされる。2021/11/25
フランソワーズ
12
スペインの地方の村を舞台にした短編集。どこにでもあるような、現実の厳しさ、世知辛さ。小さき者、弱き者への、ベタつかない眼差し。どんな人間でも持っている”かけがえのないもの”への愛。基本的に透徹な描写でありながらも、時に詩的でもある文章がすうっと胸に沁みている短編の数々。空想・幻想も含んでいても、難解にならないところも好いです。表題作、『宝物』、『鳥』、『月』辺りが気に入り。でも一つ選べと言われたら、『枯れ枝』かな。→2022/05/07
袖崎いたる
7
小説は筋書きじゃないんだなぁって、思う。マトゥーテの文体を憑依させて望む風景。人情があり、幻想的で、切ない旋律。2022/02/05