内容説明
「なんてこった!おれたちは入っちまった!…」謎のメッセージを残し、地球の周りを回りつづける人工衛星の乗組員が見たものとは?…人類に癒しがたい懊悩をもたらした驚愕の発見を語る「一九五八年三月二十四日」、古代エジプト遺跡の発掘現場で起きた奇跡と災厄を描く「ホルム・エル=ハガルを訪れた王」、屋根裏部屋でこの世のものとは思われない、見るもおぞましい生き物に遭遇した家政婦兼家庭教師の娘が底知れぬ不安と疑念にからめとられてゆく「怪物」など、全18篇を収録。知られざるエッフェル塔建設秘話、流行り病に隠された恐るべき真実、砂漠での謎の任務に出立する若い医師…幻想と寓意とアイロニーが織り成す未邦訳短篇集第三弾。
著者等紹介
ブッツァーティ,ディーノ[ブッツァーティ,ディーノ] [Buzzati,Dino]
1906年、北イタリアの小都市ベッルーノに生まれる。ミラノ大学卒業後、大手新聞社「コッリエーレ・デッラ・セーラ」に勤め、記者・編集者として活躍するかたわら小説や戯曲を書き、現代イタリア文学を代表する作家の一人であると同時に、絵画作品も数多く残している。1972年、ミラノで亡くなる
長野徹[ナガノトオル]
1962年、山口県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学院修了。イタリア政府給費留学生としてパドヴァ大学に留学。イタリア文学研究者・翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キジネコ
45
18の短編。「密告者」という話が収められています。古代ローマを舞台に統治者の施策に対して批判的なことを云ってしまった男が不安に駆られて、言質がどの様に人伝されたか?を確かめる為にとった行動が皮肉なことに男を窮地に追い込むことになる話。利休の詰め腹の逸話顛末を思い出しました。描かれる時代も背景も様々ですが人の感情が生み出す綾の陰翳・色彩の妙は普遍的なのだと作家は教えてくれます。情景が目に浮かび物語に呑み込まれていく快は、一種落語の名人の話芸の様です。「偽りの知らせ」村長の苦悩、送れなかった「ラブレター」等。2020/11/22
りつこ
40
久しぶりに読んだブッツァーティ。半世紀以上前の作品なのにまるで古びていない…どころか、今のコロナウィルス騒動やポピュラリズムやヘイトを予感さえるような作品もあって驚く。人間の抱く欲望、恐怖、不安というのは普遍的なもので、そういう普遍性を描くのが文学なのかな。ひょいっと現実を越えるような幻想的な出来事にぞくぞくしたり寓話的な物語ににんまりしたり楽しい読書。「もったいぶった男」「ホルム・エル=ハガルを訪れた王」「イニャッツィオ王の奇跡」「怪物」が特に好き。2020/03/19
あさうみ
39
短編集。10~20ページほどで本と本の読書の隙間に怖がりたいとき?読んでいた。幻想+恐怖といった味、逸話っぽいのもあれば皮肉さたっぷり、どれも味が微妙に違う。一番好きな短編は「可哀そうな子!」杉江松恋さんがミステリー好きならこれだろう、とおっしゃってたが、その通りでした。2020/02/14
あーびん
22
ふとした事件をきっかけに変容していく人間の姿を寓話的、アイロニカルに捉えた話が多い。バベルの塔めいた壮大な建設秘話「エッフェル塔」、ある意味未知との大遭遇な「一九五八年三月二十四日」、祖国の敵にのみ感染する官製インフルエンザ流行の顛末...「流行り病」、屋根裏部屋で謎の生き物を見た主人公が疑心暗鬼に陥っていく不穏さがたまらない「怪物」2021/09/03
DEE
13
短編集第3弾。急転直下の心変わりにハッとさせられる「ラブレター」、絶望がひしひしと伝わってくる「密告者」、そして最後まで明かされることのない屋根裏部屋の秘密、疑心暗鬼になっていく様が不気味であり、どこか滑稽でもある表題作「怪物」が特に良かった。 どれもかなり短い作品だけど、ちゃんと書き切っているところがすごい。2020/07/22