内容説明
秋も深まった肌寒い日、田村さんは突然帰ってきた。その日から戦後最大の詩人は私の大家さんになった―。
著者等紹介
橋口幸子[ハシグチユキコ] 
鹿児島生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。退社後はフリーの校正者として六十歳まで働く(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
アナーキー靴下
47
          
            お気に入りの方に紹介していただいた本。詩人田村隆一の家に3年程間借りして住んでいた著者が当時の日々を綴るエッセイ。既にこの世にはいない田村隆一との時間、見たまま、聞いたままの内容は、まるで返事の来ることのない手紙のような、埋められない余白に満ちていて切ない。生きている同士なら、相手の見えない部分を想像することは、良い関係を築くための方法になり得るけれど、もういないなら、想像で思い出を覆ってしまいたくなどない、と私は思う。著者はそうした想像をできるだけ排して、田村隆一との接触を誠実に記しているように感じた。2021/02/13
          
        ワッピー
38
          
            読み友さんにお勧めしておきながら、ようやく読了。早川書房を退職し、フリーの校正者になった著者夫婦が縁あって稲村ヶ崎の田村隆一宅に間借りすることになった顛末から、ふすま一枚隔てただけの生活で、田村の天才肌と優しさ、孤独をつぶさに目撃。飲酒が過ぎては時折自分に禁酒を課し、またしばらくの素面生活の後、酒道に戻る生活を、「狐が酒飲みにおいでおいでと誘うんだ」と田村自身が表現。日頃の無頓着さ(超ソフトに表現:引越時のあの修羅場を見よ!)にもかかわらず、コム・デ・ギャルソンのモデルになったり、庭先の船風呂で女優と ⇒2021/05/12
          
        paluko
9
          
            タイトルは一見、メルヘンのようだが、しばらく酒を断っていた田村隆一が著者に「ずーっとむこうの山のさきに、狐が見えるんだよ。振り返ってこっちを見ておいでおいでをしているんだよなあ。狐がね、酒飲みにおいでおいでってさ」(40頁)と語った言葉からとられている。詩人の酒にまつわる話、心を病んだ奥様の和子さんが閉鎖病棟に入院する話、夫と恋人がひとつ屋根の下に同居状態という話、武蔵境の家(蚤の巣…!)の話など、書きようによっては陰惨にもなりえる題材を、すべてうつくしく見える絶妙な「紗」をかけて描き出しているのは凄い。2021/05/17
          
        チェアー
8
          
            橋口さんが田村隆一と過ごした時間。大家と店子という関係だったけど、とても濃密な(飲んでいる時限定)関係だった。そして和子さんの存在。すでに前2作で輪郭は描かれているが、やはり不思議な関係だ。 不思議な人たちとの夢のような時間。それを真っ直ぐな奇をてらわない文章で描いていて、読みやすく、読み終わりたくなくなるような本。2021/01/20
          
        qoop
5
          
            田村隆一、田村和子、北村太郎と親交の深かった著者。本書は特に隆一との思い出を綴ったもの。これまでに和子と北村を書いた本を出して来た著者にとって…というか読む側にとって三部作のような趣。出版順に距離感の近さ遠さがある、とも云い切れないかもしれないが、隆一に感じる遠慮や敬意は他の二人とは明らかに異なるようだ。関係性を考えれば当然かもしれないが、私的な部分だけではないし、そこからまた詩人としての田村隆一への興味が掻き立てられもする。2021/06/06
          
        




