出版社内容情報
未完の日台合作映画に魅入られた少年たちの流転の軌跡
その年、李香蘭が台湾公演に来た。その年、日本は戦争に負けた。
その年、ブルース・リーがこの世を去った。その年、日本は経済大国になった。
その年、彼らはみな17歳だった。
1973年、台湾東部の吉祥鎮に日本から映画のロケ隊がやってきた。撮影のために吉祥戯院の付近がまるで日本統治時代のように姿をかえると、時空のねじれと記憶の逆流が住民の生活リズムに変化をもたらしはじめる。そんななか映画館の看板書きの息子・小羅が生徒役に抜擢されて、幼なじみであるフィルムの運搬屋・阿昌、アイス屋の養女・蘭子、3人の関係がゆらぎはじめる。
2007年、台北にアメリカからアジア映画研究者・健二がおとずれる。戦後台湾映画と日本映画の関係をテーマとする健二の台湾訪問には、もう一つの目的があった……
中国東北地方出身の父と原住民の母をもつ小羅、日系二世の研究者・健二、湾生(台湾生まれの日本人)の映画監督・松尾、そして霊魂となってさまよう台湾人日本兵・敏郎。
映画『多情多恨』に導かれるように、70年の時空を往来して少年たちのもつれた記憶が解き明かされる。
周縁の人生を幽明のあわいに描いた長篇小説。
郭強生[カク キョウセイ]
著・文・その他
西村正男[ニシムラ マサオ]
翻訳
内容説明
吉祥戯院の付近の道が姿を変えてまるで本物の日本統治時代になり、時空のねじれと記憶の逆流が鎮の生活リズムに奇妙な変化をもたらしはじめた。ばあさんは朝起きた後自分がどこにいるのかわからなくなり、寝ている家族を日本語で起こすようになった。レコード屋の店主はショーケースの中の包娜娜や謝雷の新譜レコードを取り外して、美空ひばりの古いジゃケットを並べた。じいさんは派出所に行って通報し、証拠を並べあげながらこう言うのだった。三十年前に南洋の戦場に送られ音信不通だった弟が前の晩に玄関に現れた…周縁の人生を幽明のあわいに描いた長篇小説。
著者等紹介
郭強生[カクキョウセイ]
1964年生まれ。国立台湾大学外文系卒業、アメリカ・ニューヨーク大学で演劇学を専攻、博士号を得る。花蓮の国立東華大学英美語学系(英米文学科)教授を経て、2018年、国立台北教育大学語文与創作学系(言語創作学科)教授に着任。『惑郷の人』と散文集『何不認真来悲傷』(2015)は共に金鼎賞(優れた出版事業や出版に関わる人物に与えられる賞)を受賞している
西村正男[ニシムラマサオ]
1969年生まれ。関西学院大学社会学部教授。東京大学文学部、同大学院で中国文学を専攻、博士(文学)。近年は主に中国語圏の流行音楽を研究している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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