内容説明
1880年代イギリスの農村、オクスフォード州の寒村で営まれている、豊かではないが、我が身の働きによって暮らす人々の、満ち足りた生活を、少女の溢れる詩情と好奇心を通して描く。
著者等紹介
トンプソン,フローラ[トンプソン,フローラ][Thompson,Flora]
1876~1947。イギリスのオクスフォード州ブラックレー近郊のジャニパーヒル生まれ。郵便局に勤め、24歳のとき、郵便局員のジョン・トンプソンと結婚。仕事のかたわら詩や散文を書いていたが、長い試行錯誤を経て自分にふさわしい作品の形を探求することになった。生涯の終わりになって後世に残る作品を著した作家である。最後の作品『川の流れは今も』を書き上げた数週間後に亡くなった
石田英子[イシダヒデコ]
1949年生まれ。お茶の水女子大学史学科卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
123
ヴィクトリア朝末期と言えば、大英帝国=日の沈まない国だった時代。その頃に、イギリスの田園地帯で暮らす少女の目からみた生活。そこでの生活を、夢見る少女ではなく、しっかりとした観察眼をもって描いている。自然との暮らしが、150年前ではこんなにも素直なことであったのかと胸を打たれた。こちらは、大草原の小さな家に対し、イギリスのローラと呼ばれるらしいが、アメリカと違い、ずっとそこに根付く何物かを強くかんじた。本を閉じても、田園地帯が目に浮かぶ。2016/10/02
まふ
113
英国高校生の必読書とされている格調高い風土記的作品。オクスフォードシャーのとある村の人々の生活、習慣、行事、人々の生活、学校生活、仕事の様子等々、当地で生まれ育った作者の幼児から青年期に至るまでを事細かに記録した貴重な作品である。ハーディーを読むときなど大いに参考になりそうである。とくに面白かったのは私生児の発生具合とその事後措置の現実的対応、女の子の名前の時代による流行などである。G494/1000。2024/04/26
NAO
68
酒場での男たちの政治談議、猥談、陽気な歌。午後のひと時を過ごす女たちのおしゃべり。そして、子どもたちにも子どもたちの世界があった。今はもう歌われることもなくなってしまったというたくさんの遊び歌が紹介されているのは、これらの遊び歌がいつの日かその存在さえも忘れられてしまうことを心配したからだろうか。中でも、子どもが生まれると教会から貸し出されたという木箱の話が印象的だった。ラークライズという架空の村を舞台に、作者自身の故郷の村での生活を描いた自伝的小説は、この美しい表紙にぴったりの美しさに溢れている。 2018/02/04
syaori
55
時はヴィクトリア朝後期。鉄道網が広がって世界は狭まり、人の手が機械に変わり、生活様式も価値観も変化しつつあったまさに過渡期。所は英国オクスフォード州ラークライズ村。そこでの作者の少女時代は貧乏ゆえの苦労も多いけれど、変わってゆく村の生活を捕らえた冷静な視線と、過ぎ去ってしまったものたちへの郷愁とが絡まり何と輝いていることでしょう。土を耕し豚を飼い、苦しさを笑い飛ばして暮らす、人生の「ささやかな幸せ」の秘密を知っていた人たちの生活を追ってゆくのは、心に暖かいものが満ちてくる、どこか懐かしく幸福な体験でした。2018/06/15
seacalf
40
英国オックスフォード州の小さな村を舞台とした自伝的小説。時代が時代なので村人の生活はとても厳しい。娯楽もない日々で、楽しみといえば村にひとつのパブでの一杯に、歌い継がれてきた古いバラッドの合唱、質素ながらのお洒落、素朴な遊戯。思い出とは、とかく甘くて輝かしくなりがちだが、良いことだけではなく偏見にまみれたネガティブなことまで当時の暮らしを驚くほど包み隠さず語られている。不自由さとの闘いの中でも感じられた満ち足りた日々の記録は、幸せの有り様について深く考えさせてくれる。翻訳済である続編の刊行が待ち遠しい。2018/08/16