感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
糸車
38
人と人が触れ合えば何らかの感情が生まれる。自宅療養するエイズ患者の生活を手助けする主人公は訓練を受けたプロらしく淡々と仕事をこなしながらも、やがて訪れる別離に徐々に心を痛めつけられているように思える。懸命に生きる彼らを同情で語ってはいけないと理解していても、失われる命と同じ時間を共有していれば心が動かない訳がない。この小説を重たいお話とは言いたくない。淡々と語られている分、読み手が想像し心を動かされる気がする。号泣ではなく、気づけば頬が濡れているような。10年以上前に図書館で読み、再読。また読むと思う。2015/03/14
やまはるか
32
柴田元幸訳 重篤なエイズ患者のホームケア・ワーカーの一人称語り。介護日誌のようなスタイルで複数の患者との関りが「~の贈り物」として11の小編になっている。舞台はアメリカ、病気の特性のように男同士のペア―が何組か登場する。ケアーする相手は全員寝たきりで、確実に死が近づいていることを本人も回りも静に受け止めている。横たわる末期患者にシーツを掛けようとした時「まだ掛けないで、空気がすごく気持ちいい。空気を肌に感じていたいんだ」と言って制する。死に直面した人のそうした一つ一つの声が生き生きと輝いて聞こえる。2023/09/29
たまきら
24
図書館で新たに読む本を物色中に、訳者の名が目に留まって。この人の訳す本は、英語を彷彿させつつも日本語の流れが自然なので好きです。しかもあとがきに「この本はいつにもまして勧めたい本です」とあるじゃないですか。読んで、最後泣きました。エイズ患者(出版された90年代前半、まさに死の病でした)のターミナルケアをしている女性と、その周囲の人のシンプルな短編集が集合したものなんですが、90年代をアメリカで過ごし、友人2人をエイズで亡くしている自分にはかなりこたえました。簡潔で清浄な素晴らしい文章です。秀逸。2016/02/08
アナクマ
23
「薬は発見されて、前よりも長く生きられるようにはなった。でも…相変わらずみんな死んだ。死ぬのが長引くようになっただけだった」「彼らが死ぬと、こっちは彼らがいなくなって寂しくなる。でもある意味では、もうその前から寂しくなっているとも言える」この辺りは胸が締めつけられる。「じきに彼らが死ぬことを知っているから」。しかし考えてみると〈こっち〉も似たようなものだ。やがて死ぬ。であれば…何を贈るか、贈られ物とみなすか、どのような態度で受け取るか、そこが焦点となるのでしょう。◉目の前で起きていることを見つめる、→2025/12/04
アナクマ
21
原書は94年。「エイズ患者を世話するホームケア・ワーカーの語り」連作短編集。「中学英語の文章と単語」により、シンプルに、しかし紋切り型の感情表現に依らず、「起きたこと、感じたことを真正面から語る」(訳者弁)◉さて、贈り物? 誰が? 何を贈り、贈られるのか。ある患者がしつらえてくれた食卓とシャツの匂い。ベッドの上で手を清拭する介助、その感触。食欲減衰にもかかわらず口にする思い出のシロップ。描かれている内容は単純、わかりやすく、一編一編は短い。騒々しい、ぎょうぎょうしい表現は何もない。後半に続く。2025/12/02




