内容説明
広い土地で百姓がしたい。貧農の長男に生まれた由五郎は、満蒙、国内、そして南米パラグアイでの開拓と、一生のあいだ過酷な開拓に挑みつづけた。開拓の夢を追って走りつづけたもうひとりの男の生涯を、綿密な聞き書きと著者の記憶とで蘇らせ、昭和の開拓史の薄明の部分に内側から光を当てる。
目次
第1章 満蒙開拓
第2章 国内開拓
第3章 南米移住
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
55
佃吉五郎が生まれたのは、耕作地はわずかしかなく村の8割を占める森林は地元民が自由に使えない秋田杉の国有林という青森と県境にある秋田の小さな山村。満蒙開拓の募集に応じて満州に渡り、戦後命からがら日本に戻ると仕事を無くした都会の人々向けに北海道や秋田の山奥での開拓募集に参加、開拓がうまくいかない土地の撤退が決まると、今度は南米パラグアイへの移民に思いを寄せるようになった。三度も開拓民となった吉五郎の土地への思いは痛々しいほどで、その一方で農民に対する政策の酷さには憤りを感じる。2025/06/16
のん@絵本童話専門
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時代の波に翻弄され、三度も厳しい開拓者となり、夢半ばにして亡くなった佃由五郎の生涯を描いている。これほど厳しい環境に飛び付かねばならないほど、日本国内の生活も貧しさを極めていたのだ。満州での安定した生活は束の間、戦後の引き揚げ時の経験は沖縄戦にも近い壮絶さだった。子供を亡くしたことは自分のことのように感じられ、恐怖と悲しみで息を止めて読んだ。また、祖父が戦後の開拓者で、家には開拓を讃える表彰状もあった。祖父母の戦後の苦労が少し垣間見えた。予想以上に真に迫る一冊だった。中学生〜2024/03/07