出版社内容情報
なぜ人を殺してはいけないのか?
なぜ自殺をしてはいけないのか?
なぜ目的もないのに人は生きられるのか?
そんなナゾを、あの青木ケ原樹海に消えた、
3人の男女を追いながら、
脳科学者と知能ロボット研究者と植物学者、
そして女子大生が、
脳という臓器の仕組みの視点から解き明かす、
今までには全くなかった新しい科学ミステリー小説!
新潮社刊『幸福の遺伝子』で知られる著者の待望の最新刊。
1
青木ケ原樹海へむかう四輪駆動トヨタ・ランクルの中だった。ミヨ子は私に右腕をからませていた。小柄だが、さすがに大学生という時代を主張するかのような弾力のある胸のやわらかさが、私の左腕の生まれて五〇年を経た皮膚感覚からでさえ、脳の体性感覚野に真直ぐに伝わってきた。
ミヨ子がそのままの姿勢で、視線を遠く、秋のはじまりのぼんやりとした灰色の空に置いたまま言った。
「人間に心というものはないの?」
「ない」
「人間には感覚も感情もある。脳が物質に過ぎないとしても、何かがありそうな気がするわ」
「ない」
「それじゃ、人殺しはなぜ悪いの?」
「悪くはない」
「自殺は?」
「同じことだ」
「ふううん、脳って変な感じね……」
これだけの年齢差の二人の会話が、お互いの脳の中でどのような世界をつくっているのか、考えたことはない。それで、けっこううまくいっている。
昨晩はよく眠った。ミヨ子とセックスをした夜は、いつもの日常とはまったく異なる次元の世界にいるかのようによく眠れる。よく眠れると言葉が走る。走りすぎて、後で、その真意を説明するのに苦労することも少なくはないのだが……。
今日は、
好評シリーズ、第3弾です。
装画=民野 宏之
装丁=臼井新太郎
内容説明
なぜ人を殺してはいけないのか?なぜ自殺をしてはいけないのか?なぜ目的もないのに人は生きられるのか?そんなナゾを、あの青木ヶ原樹海に消えた3人の男女を追いながら、脳科学者と知能ロボット研究者と植物学者、そして女子大生が脳という臓器の仕組みの視点から解き明かす、今までには全くなかった新しい科学ミステリー小説。