内容説明
「真」か「偽」か―研究の世界でタブー視されてきた、美術作品をめぐる「鑑定」の入門書。観るべきポイントを丁寧にひもといていく。
目次
1 「偽」の実態―江戸時代編
2 「偽」の実態―明治~大正編
3 形式要素の「観察」―資料性評価のチェックポイント
4 “「観察」の実践1”物質面―経年変化、本紙
5 “「観察」の実践2”技術面―筆墨、彩色ほか
6 “「観察」の実践3”周辺情報―落款、賛ほか
7 形式要素の「比較」―資料性評価の実際
8 批判的「観察」と科学―資料性評価の理論
著者等紹介
杉本欣久[スギモトヨシヒサ]
1973年、京都市生まれ。1998年3月、早稲田大学大学院文学研究科芸術学(美術史)専攻修士課程修了。同年4月より、黒川古文化研究所(兵庫県西宮市)に勤務。2009年3月、早稲田大学にて博士(文学)の学位を取得。2018年4月より、東北大学大学院文学研究科(東洋・日本美術史)の准教授として日本近世美術史を研究。美術史学会の常任委員、事務局長を歴任。文化財保存修復学会、美学会などに所属(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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六点
114
美術品に接する時、「縁なき衆生」である六点にとって、ガラスケースに納まっている作品はそれだけでもある種の権威を持って見える。果たして、美術史学者はそれだけの自信を持って、真贋を明らかにしているのか?見方のガイドラインは無いのか?と、言う問いを持った著者による試論と言えるだろう。巻末で著者が結論として挙げている「好悪で判断しない」「一つの尺度に拠らない」「違いを軽視しない」「絶対を作らない」の心得は、美術品のみならず、「人間が下す評価」そのものにも通底するのではないかと思ったことであるよ。2023/04/04
bapaksejahtera
15
美術作品の様々な贋作について、江戸時代明治大正迄の技法を含め史料を基に実態を述べる冒頭は興味深い。次いで美術品に経年的に生ずる劣化の態様、時代に依って変化する画材等の変遷が美術品の鑑定に如何に関わるかを述べる。中でも絵画に用いられる絹布の進歩は印象的だ。手織りから織機改良を経て画絹は次第に緻密になる。この精密な分析で時代判定も可能となる。だが著者の主旨は美術品鑑定に当って技術を過信せず、鑑定書や伝来に臆せず、常に批判的に当たれとする処。実例を用いて判断の余地尚多い処を示す。該分野の難解である事が理解される2023/05/17
多分マグマグ
4
鑑定は奥が深いな。「真実」「真理」の存在を信じなければ、「鑑定」もスタート地点に立てない。「鑑定」という行為そのものが、自己完成に伴う「道」の追求と同様のことである。『四十歳過ぎるまでは思っていることを世間で言うなよ。潰されてしまうから、それまではガマンさえよ。2023/10/24
skr-shower
3
他地区図書館本。AI生成が増えてくるこれからには必要な事。好き嫌い・工房作品・着物の成り立ち・落款の位置など見るべきポイントを実例と共に。そしてニセモノとは何ぞやとい問い。2023/06/26
kaz
2
本格的に鑑定をするのであればこれはほんの入門なのだろうが、チェック・考慮すべき事項、比較すべき対象等、素人からすれば気が遠くなる。しかし、こういうものをきちんと見るからこそ、一定の価値が維持されるのだろう。尤も、本人が美しいと感じるのならそれで良いという考え方もあるだろうが。図書館の内容紹介は『研究の世界でタブー視されてきた、美術作品をめぐる「鑑定」の入門書。江戸から大正までの資料に基づき、「偽」づくりの実態を明らかにし、「真」「偽」を炙り出すための「比較」という方法論について述べる』。 2023/07/14