出版社内容情報
フランス文学と芸術の関わりは深く、画家や音楽家、彫刻家を主人公とする芸術家小説をはじめとして、美術や音楽に関連する作品が数多く見出せる。本書はそうした作品を題材に、絵画がフランス・ロマン主義文学の中でどのように扱われているのかを、ジェンダーの視点を加味しつつ探るものである。例えば「近代小説の祖」と呼ばれるバルザックは、作品中で女性を描写する際に、しばしばラファエロの聖母像などの絵画を引き合いに出している。
人物描写において絵画の比喩が用いられるようになったのは、バルザックの生きた時代、すなわち一九世紀前半からのことである。その背景として、?@大革命後にルーヴル美術館が一般開放されたこと、?A複製画やリトグラフ(石版画)が普及したこと、?B経済的に余裕のできたプチ・ブルジョワが、文化的教養を求めてサロン(展覧会)に通うようになったこと、などが挙げられる。この時代、大衆にとって絵画がより身近な存在となり、その結果、登場人物のイメージを喚起させるために小説内で絵画を比喩として使うことが可能になったわけである。
文学作品で絵画が言及される場合、それがどのようなメタファーとして使われているのかを注意深く見定める必要がある。とりわけ人物像には、「男らしさ」「女らしさ」に関する当時の社会的通念が無意識のうちに投影されている。本書ではこうしたジェンダーの観点から、バルザックやテオフィル・ゴーチエ、マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール、ジョルジュ・サンドらロマン主義作家の作品を取り上げ、絵画受容の相違点(とりわけ男性作家と女性作家の視点の違い)を浮き彫りにする。
バルザックは自らを「文学的画家」と呼び、絵筆の代わりに言葉を使って画家と競おうとしていた。そこには、芸術家たちが分野を超えて連帯し、互いに影響を与え合った時代の空気がみてとれる。本書では、そうしたロマン主義の文学作品と絵画との相関性を探ることで、文学作品の読解に新たな視角を加えることができればと思う。(むらた・きょうこ)
【著者紹介】
大阪府立大学地域連携研究機構女性学研究センター教授。文学博士(パリ第7大学)。主著『女がペンを執る時―19世紀フランス・女性職業作家の誕生』(2011年)、『娼婦の肖像―ロマン主義的クルチザンヌの系譜』(2006年)など。
内容説明
芸術が大衆化した時代、絵画のイメージを作品に貪欲にとりいれながらも、「絵筆ではなくエクリチュールで」世界を描こうとした作家たちの創意を読み解く。古代から新古典主義まで図版80点収録。
目次
第1部 『人間喜劇』と絵画(「無垢な処女像」の悲劇―『毬打ち猫の店』;「聖なる娼婦」の寓話―『知られざる傑作』;性別役割の転倒―『ラ・ヴェンデッタ』)
第2部 ロマン主義作家と絵画(美を永遠化する夢―ゴーチエ『金羊毛』『カンダウレス王』;女を疎外する芸術空間―デボルド=ヴァルモール『画家のアトリエ』;芸術の聖なる火―サンド『ピクトルデュの城』)
著者等紹介
村田京子[ムラタキョウコ]
大阪府立大学地域連携研究機構女性学研究センター教授。文学博士(パリ第7大学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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