出版社内容情報
不世出の映画監督ジャン=リュック・ゴダールは2022年9月13日、91歳で自死を遂げた。本書はその追悼文から始まる。いかに彼が革新的な映画監督だったか。フランス・ヌーヴェル・ヴァーグのフランソワ・トリュフォーと並ぶ象徴的存在で、映画史に決定的な影響を与え、いかに多くの模倣者を生んだか。そして、1968年のフランス五月革命以降、二人は訣別し、ゴダールは暴走し、映画の破壊へと向かい、孤独の隘路に陥り、誰にも理解されない「不幸な映画」をいかに撮り続けることになったか。
本書は映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」同人としてフランス現地で出会って二人をよく知る著者が、これまで書いてきたゴダール論を大幅に加筆改稿してまとめた集大成ともいえる大著。「さらばゴダール」ともいうべき哀悼の序章(「キネマ旬報」、「ユリイカ」等の追悼文を収める)から、2章以降、特に著者が愛してやまなかった1960年代ゴダール各作品をつぶさに論じた「映画誌」から成り立っている。「映画誌」というのは著者特有の言い方で、その作品にまつわるもろもろの事象、エピソード、雑感、作品背景、関係者の言葉、分析などを含めたすべてを言い、エッセイというか批評というか読みどころ満載の作品論である。
1959年作品『勝手にしやがれ』から1967年作品『ウイークエンド』まで15本の長編作品、9本の短編作品を取り上げた。『勝手にしやがれ』は公開当初から、社会を震撼させ、若者たちを熱狂させた。これは映画技法の革命と言ってもいいほどの作品だった。山田宏一氏は1964年から1967年までフランスに留学し、その熱狂の中で映画を見続け、ゴダール、トリュフォーとも交友を結んだ。
氏の初期評論集『私が映画についてについて知っている二、三の事柄』(1971年、三一書房刊)の第1章は「私がゴダールについて知っている二、三の事柄」から始まっている。そこから2020年刊の「増補新版 ゴダール、わがアンナ・カリーナ時代」(ワイズ文庫)まで50年にわたってゴダールについて多くの文章を書き続けてきた。60年代のゴダールはすべてに輝かしく作品も素晴らしかった。アメリカの高名な女流映画コラムニスト、ポーリン・ケールは「豊穣の1960年代ゴダール」と呼んだ。
本書の巻末に付録としてゴダールとトリュフォーの訣別喧嘩状がついている。1968年を境に二人は訣別し、その熱狂は冷めてしまった。著者ももうその後のゴダールに関してはあまり触れていない。
本書は著者の愛してやまなかった60年代ゴダールとその後のゴダールへの愛憎半ばする総決算である。
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garth
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