出版社内容情報
吸血鬼、人造人間、ドッペルゲンガー、廃墟、地下--。
ヨーロッパでカトリック的な超自然が否定されたことへの反動から生まれた「ゴシック 」は、人間の不安や欲望といったネガティブな要素の受け皿となった。人々を惹きつけてやまない一大美学の超自然的な悪の魅力を解き明かす。
内容説明
吸血鬼、人造人間、ドッペルゲンガー、廃墟、地下―ヨーロッパでカトリック的な超自然が否定されたことへの反動から生まれた「ゴシック」は、人間の不安や欲望といったネガティブな要素の受け皿となった。人々を惹きつけてやまない一大美学の超自然的な悪の魅力を解き明かす。
目次
第1章 「ゴシック」の起源
第2章 吸血鬼
第3章 人工生命―人造人間・アンドロイド・AI
第4章 分身―ドッペルゲンガー・悪魔憑き・二重人格
第5章 廃墟
第6章 地下
著者等紹介
唐戸信嘉[カラトノブヨシ]
1980年生まれ。立教大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。茨城キリスト教大学准教授。イギリス文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アキ
84
ゴシックの語源はルネサンス期の画家ヴァザーリのゴート人の蛮行に言及した文章から「野蛮な」という意味で、中世後期の北ヨーロッパを中心にした教会建築をゴシック様式と呼んだもの。現代におけるゴシックのモチーフとして、吸血鬼・人工生命・分身・廃墟・地下の5つを挙げ、その共通する象徴的な意味は一言で言うと「死」であり、近代という死を遠ざけた時代のカウンターカルチャーとして拡がりをみせ、内面化される怪物と隠喩としてのエロとして消費されつつある。イギリス文学が専門の著者の視点での「フランケンシュタイン」の件が興味深い。2021/06/10
アノニマス
10
映画や小説で教会で罪の許しを請うシーンを見かけるがそれは全てプロテスタントではなくカトリックの教会であったことを知った。吸血鬼やドッペルゲンガーなど本書で紹介された対象は「人間の意識の地下にうごめく野生、獣性を形象化したもの」であるという指摘に納得してしまった。ミシェル・ウェルベックが「人生に膿み疲れた心にとって、ラヴクラフトを読むことが逆説的な慰めとなる」と言っている通り私たちの心の奥底には終焉への望みがあるのだと思う。2024/02/25
owlsoul
5
宗教改革やフランス革命といった急激な変化に対する反動として、保守的なイギリスで起こったゴシック・リバイバル。それは革新的な時勢へのカウンターカルチャーであった。プロテスタントによる煉獄の否定、そしてフランス革命後に拡がる人間中心主義の影響下で、人々は神を軽んじ、死を遠ざけた。そんな近代化の流れに逆らうように、ゴシックカルチャーは人間の物質性から死を、自然の崇高さから神を取り戻そうとする。吸血鬼、人工生命、廃墟、ドッペルゲンガー。それらのモチーフは近代文明が隠蔽する死やエロス、自然の混沌を、我々に想起させる2023/03/23
らむだ
4
第一章でゴシックロマンスが生まれるまでの歴史を概観し、以降の章では吸血鬼・人工生命・分身・廃墟・地下というゴシックにおける重要なモチーフの歴史と文化的背景を辿る。現代まで続くゴシックカルチャーの流れを掴むのに適した一冊。2022/09/01
saladin
3
著者は”ゴシックは近代(科学的合理主義、ヒューマニズム、民主主義etc.)という時代に対するカウンターカルチャー”と定める。近代が神を遠ざけ、死や苦痛を秘匿した結果、生のリアリティも失われてしまった。ゴシック・カルチャーはそのいびつさに警告を発するものなのだ。興味深かったのは、H・P・ラヴクラフトが、ゴシック精神が畏怖の対象とする神を、エイリアンに置き換えたという指摘。そのため、ゴシック・ロマンスとSFが無理なく接合することが可能となり、『エイリアン』などSFホラー映画が生まれたのだ。2021/04/23