患者中心の医療

患者中心の医療

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  • サイズ B5判/ページ数 225p/高さ 26cm
  • 商品コード 9784787812056
  • NDC分類 490
  • Cコード C3047

出版社内容情報

《内容》  総合診療科で診療に当たっているとさまざまな患者に出会う.たとえば70歳の女性の場合はこんなふうであった.それまで何の症状もなく元気で山歩きをしていたが,たまたま健康診断を受けたところ,未破裂脳動脈瘤が発見された.発見直後から頭痛が始まり,手術によってますます症状は悪化していった.医師に問いかけても“手術は成功した,高度医療機器検査による異常はない”という言葉が返ってくるばかりである.そして,7つの医療機関で7回検査が繰り返され,8回目の全身精査を希望して総合診療科を受診したのである.ここには,患者の背景を知ろうとせず病気を探し続ける医師と,満足を求めて彷徨い続ける患者という現在の医療問題の図式が凝縮されている.
 このような事態を招いた原因は3つ考えられる.第1に,現代医療はあまりに医療従事者中心でありすぎる.“科学性”を追求し,病歴や兆候,身体所見の一般化を目指すあまり,患者の苦悩への共感が忘れ去られているからである.第2に,患者・住民の声が届かない体制に医師が安住していたことがあげられる.第3に,真の職業人を育てる教育システムを医療界が持たなかったことが考えられる.医師養成の最高学府であるはずの大学は,ほとんど世の中に貢献することのない学位取得の場に成り下がり,それを餌に医師を供給するだけの場となっているからである.もともと教官としての自覚のないものが,自分が教えやすい知識・技術を伝達しているにすぎないのが医学教育現場である.“医師中心の医療”を実践する医師から,“患者中心の医療”のための知識・技能・態度は伝達されるべくもない.
 本書は,家庭医療をもう少し原理的なところまで深く学習してみようと思っていた矢先に,たまたま“患者中心の医療”というタイトルに惹かれて購入したものである.しばらく,図表を中心に学生や研修医の講義に利用していたが,暇を見つけて本文を読み進むとたくさんの哲学的・文学的内容が盛り込まれていることがわかった.“患者中心の医療”を提言するには学際的な教養が必要であることを痛感した.今まで“医師中心の医療”しか学べなかった医療関係者に少しでも読みやすいかたちでこの本を紹介できれば幸いである.
 本書には,患者を中心にした医療のしかたのみならず,学習者を中心とした教育のしかたが述べられている.第1部を読み始めたものは,これまでの診療スタイルの変更を迫られるであろう.第2部まで読み進んだものは,医学生や研修医への対応を反省することであろう.ここまで患者や学習者を中心にした技法のあり方を歴史的にかつ哲学的に振り返り具体的に書き起こした本は数少ないと思われる.ひとりでも多くの医療関係者が本書を紐解き,これらの知識・技法を修得されることを望みたい.
 最後に,翻訳に当たって診療の合間を縫い難しい英語に格闘した教室員各位に,また本当に丁寧な仕事で助けてくれた編集者の寺島恵さんにこの場を借りて感謝したい.
山本 和利    

《目次》
監訳者序
原著序
謝辞
訳者一覧
導入
  新たなモデルと技法を求める社会的,専門職的圧力
  患者中心の技法の発展の歴史
  モデルの強さと限界
  概観
1.なぜ新しい臨床技法が必要なのか
  18世紀ヨーロッパの啓蒙思想
  Thomas Sydenham
  SydenhamからLaennecへ
  りんごのなかの虫(一番触れたくないこと)
  医学の職務
  境界
  新しい語彙の必要性
  変わることの難しさ
  健康と疾患についての異なった考え方
  正当化
第1部 概念
2.患者中心の臨床技法についての概観
  臨床医学のモデル
  患者中心の臨床技法
  結語36
3.第1の要素/疾患と病い体験の両方を探る
  病いのステージ
  病い体験の4つの側面
  症例
  理解されること 第1の要素の症例:疾患と病い体験の両方を探る
4.第2の要素/全人的に理解する
  人:個人の発達
  症例
  個人と家族のライフサイクル
  文脈とシステム
  症例
  文化
  結語
  失われた夢 第2の要素の症例:全人的に理解する
5.第3の要素/共通基盤を見出す
  問題を定義する
  症例
  目標を決める
  症例
  症例
  医師と患者の役割を決める
  共通基盤を見出すプロセス
  症例1 要求のきびしい患者
  症例2 ツタかぶれの“ひどい”症例
  習慣を変えることの難しさ 第3の要素の症例:共通基盤を見出す
6.第4の要素/予防と健康増進を組み込む
  健康増進と疾病予防の基礎
  健康増進と疾患予防は患者中心のケアを必要とする
  患者中心主義は健康増進と疾患予防を促進する
  症例1
  症例2
  症例3
  結語
  “1オンスの予防は1ポンドの治療に匹敵する(転ばぬ先の杖)”第4の要素の最初の症例:予防と健康増進を組み込む
  選択と機会―だれの責任か? 第4の要素の2番目の症例:予防と健康増進を組み込む
7.第5の要素/患者・医師関係を強化する
  治療関係の特性
  患者・医師関係における権力構造
  ケアリング
  癒し
  自己認識
  転移と逆転移
  支配と保証 第5の要素の症例:関係を強化する
8.第6の要素/現実的になる
  時間とタイミング
  症例
  資源にアクセスすることとチームを立ち上げること
  賢い管理
  結語
  “家に帰る方法を教えて下さい”第6の要素の症例:現実的になる
第2部 学習と教育
9.患者を中心とした方法の学習/医学教育の人間的次元
  教育で用いられる2つのメタファー
  学習についての人間的次元の理解
  教師のガイドライン
  結語
10.患者を中心とした方法を学習・教育する際によく起こる問題への対応
  医療の性質
  症例
  患者への力を放棄する不快さ
  症例
  自己認識の必要性
  症例
  伝統的医学モデルの過強調
  “面接”よりも“問診”に集中すること
  症例
  不慣れな教師
  教師に迫る要求
  教師の過保護
9.患者を中心とした方法の教育/教授法
  学習者中心ということ
  教育・学習原理
  学習目標
10.患者を中心とした方法の教育/実用的なアドバイス
  学習をどのように構成するか
  よく用いられる教授方法
  臨床において学生を監督する際のコツ
  結語
11.患者中心のコミュニケーションを教える教育手段としての症例提示
  症例提示アプローチのレビュー
  患者を中心とした症例提示の詳細
  患者中心の症例提示の1例
  この新しい方法の利点
  まとめ
12.アウトカム研究と患者を中心としたコミュニケーション
  コミュニケーションにおける問題
  コミュニケーションの効用
  患者中心の要素の有効性
13.患者中心度の測定方法
  コード化
  医師の行動のチェックリスト
  評定尺度
  患者や医師とのインタビュー
  統合した評価法
  患者中心のアプローチの第1,第2,第3の要素の採点法
  要約
14.患者中心のケアを明らかにする質的アプローチ
  内に隠されたものの明白化
  理論を明確にすること
  背景を理解する
  結語
15.長期間の患者・医師関係
  方法
  質的研究
  結果:長期間にわたる関係
  量的分析
  結語
結論
  将来へ向けて
付録
文献
人名索引